時事通信社「内外教育」1999年12月7日 5067号

教室からインターネット、地域一体で実現

ボランティア、教師、児童など1400人参加

兵庫の5小学校で連続「ネットデイ」

 時事通信社神戸総局 中川和之

 「穴はこの位置に開けていいかな」、「ケーブルを引っ張りますよ。大丈夫ですか」、「やったあ、つながってる」−。10月から11月にかけて、兵庫県の姫路市や市川町、山崎町の5小学校を舞台に行われた学校情報化支援の「はりまスマートスクールプロジェクト ネットデイはりま99」の1場面だ。学校内の各教室でインターネットが使えるよう、地域住民のボランティアやPTA、他校の教師、児童ら延べ1400人が一緒になって回線を敷設するこの事業。米・シリコンバレーで始まった、学校のネットワーク接続環境をボランティアで作ろうというネットデイ活動の日本版だ。
 ネットデイは、学校インターネットの推進とともに、兵庫県や群馬県、福島県、千葉県、愛知県、滋賀県など全国各地で開かれるようになってきたが、今回は2カ月足らずの間に近隣の5小学校がリレー形式で実施するという全国初の方式。各教室でインターネットに接続できる環境が出来上がるだけでなく、PTAや地域住民を巻き込んでのイベントとすることで、小学校を拠点にした地域内の連携や協働のるきっかけを作り、さらにそれぞれの学校の教師が互いに手伝いにまわることで学校間の交流も深まるという「一石三鳥」が狙いだ。

 震災きっかけに97年に取り組み

 情報の断絶が混乱に輪をかけた阪神大震災をきっかけに、郵政省の外郭団体の通信・放送機構によって光ファイバーの幹線網が神戸市内に敷かれ、市内の各小学校に防災端末兼用としてインターネットにも接続できるパソコン1台が職員室に配備された。各学校のパソコンルームには教師用パソコンと生徒用パソコン10台が独立して設置された。
 このパソコンルームと職員室のパソコンをネットワークケーブルで接続すれば、子供たちもインターネットが使えると、神戸市も参加する神戸マルチメディア・インターネット協議会の有志が呼びかけたのが、「ネットデイ夢プロジェクト」。企業などの支援を受けて、神戸市と伊丹市、姫路市の小学校6校が、ネットワーク技術を持っているボランティアやPTA、教師と一緒に、関西初の「ネットデイ」を1997年11月に実施した。
 姫路市で、このプロジェクトに参画する母体となったのが、地元の産官学の関係者が市民の立場で構成するはりまインターネット研究会だ。昨年まで事務局長を務めた和崎宏さんは、同市内でインターネットのプロバイダーを経営する。阪神大震災の際には、姫路青年会議所(JC)のメンバーとして、パソコン通信を活用して西側から被災地に入る救援物資の調整などを行った経験がある。災害時は、避難所となる学校を拠点とした地域の情報ネットワークや、住民と学校との協働の重要性を、身をもって知っている人だ。
 「ただ学校内にLAN回線を引くだけでなく、ネットデイをきっかけに、学校を地域で支える人と人のつながりができることが大きな目的。2003年から導入される総合的学習の時間でインターネットを活用した授業を行う際も、地域からのサポートが得られやすくなる」と和崎さんは話す。
 97年当時は、地元教委との調整不足もあって1校だけ特別扱いできないと、いったんネットに接続した学校から設備を撤収させられた苦い経験も持つ。同研究会は、兵庫県や県教委と連携して、ネットにつながった学校でそれぞれの学区や地域を紹介するホームページ「はりまこども風土記」を作成する支援も行う「はりまマルチメディアスクール」を実施。そこでできた人のつながりをいかして、初のネットデイ・リレーを実践した。
 最初のネットデイは、ほとんど手弁当だったが、今回は情報処理振興事業協会に「情報学習サポート事業」として申請し、補助金を受けての実施となった。講習会や下見会、打ち合わせなども数を重ね、参加校に対して回線を引く以外に一定額の補助を行った。しかし、どのような方法で回線を引きたいかや、ネットデイのイベント実施方法などはあくまで、学校やPTAが主体。他校の教師や地元住民、同研究会メンバーのボランティアは、その支援をする形で準備が進められた。

 ドリル持つ先生の姿に児童も感動

 10月31日朝、4校目のネットデイとなった山崎町立山崎小学校には、浅田茂樹校長以下同校の教職員、児童、PTA、地域JCや商工会などからの住民ボランティア、他の4校からの応援教職員、そして専門家ら「ネットデイボランティア」合わせて約200人が集結した。
 体育館で浅田校長やPTA会長のあいさつの後、前日の下見会での打ち合わせ通り、場所ごとに6チームの工事隊と、炊き出しや記録・調査班、受付・渉外班の支援隊に分かれて作業に。「ささのこ班」と名付けられた子供たちは、専門家でもめったに使わない専用機器を使った回線検査や、ホームページ作りのための取材、調理のサポートに飛び回った。
 夏休み中に開かれた打ち合わせ時には、「まだ何をやっていいかイメージがわかない」との声が出ていたが、この日は手分けをしながら作業が進んだ。回線工事の専門業者からの支援は数人だけ。あとは、この日までに敷設方法を学んだ素人が大半。慣れぬ手つきでドリルを使って壁に穴をあけたり、回線の分配器を取り付けたり。職員室とパソコンルーム間だけだった回線に加え、4年生以上の教室と、図書室や理科室など15室に次々に回線が敷かれた。
 子供たちは「この作業はどこが大変ですか」「この装置はどういうものですか」と取材してまわりながら、普段は教壇に立つ先生が工具を持ってボランティアたちと一緒に働く姿に「先生、頑張って」の声をかける。大人たちも手を休めて丁寧に子供たちに説明し、その結果は昼過ぎにはホームページで実況中継された。浅田校長も鉄板の前に立って焼きそばを調理し、新米のおにぎりと、イノシシ汁、焼きそばが参加者に振る舞われた。
 回線の品質チェックを担当した子供たちの作業ぶりは、「飲み込みが早い」と専門家も驚くほど。作業は午後3時ごろにほぼ終了。パソコンルームで1カ所配線間違いがあり、それを見つけるため全回線を再確認するハプニングがあったが、図書室で行われた開通式では、浅田校長らの手で最後のコネクターを接続。子供たちが取材したホームページがスクリーンに現れると、参加者から歓声が上がった。最後は、ボランティアやPTAが輪になって、この回線を使うことになる子供たちに激励の握手をして終了した。
 浅田校長は「ネットデイは、みんなの心を結びつける刺激になった。これからが私たちの仕事。子供たちが世界の情報をキャッチしたり、発信したりするできるようにするために、私たちの責任も重い。全教室へのパソコン配備はすぐには難しいが、この回線を有効に活用するために何とか工夫し、目標を置いた活動を行って、町内の他の小学校にも伝えていきたい。そこでは、地域とのつながりが重要で、このネットワークのアフターケアを気楽にしてもらえるような環境も作らねば」と課題を語る。
 この日の回線工事にかかった実費は18万円程度。業者に発注する10分の1程度で完成した。和崎さんは「ネットデイが安価な回線業者になってはいけない」と指摘する。「ネットデイは目的ではなく、あくまで手段。一緒に作業をすることでできた人のつながりが基礎となり、インターネットを使って住民が授業を手伝ったり、ボランティアがソフトウェア開発を助けたりという活動につなげることが大切。私たちも一緒に試行錯誤しながら行っていくことで、地域の活力を高めていきたい」と話していた。ホームページのネットデイはりま’99アドレスは、http://www.ssj.gr.jp/hssp/


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