大規模災害における応急救助のあり方

平成8年5月
厚生省・災害救助研究会



報告書・要旨


1.趣旨
 阪神・淡路大震災は、災害救助法を中心とする応急救助の実施体制及び内容・方法、高齢者・障害者等要援護者への支援、ボランティア活動と行政との連携等に関し、数多くの課題を提起した。
 このため、厚生省では、大規模災害における災害救助の今後のあり方について総合的に検討を進めることとし、平成7年11月に災害救助研究会を設置し、兵庫県、神戸市、日本赤十字社、社会福祉協議会、ボランティア団体等からのヒアリング、被災地の視察を含め9回にわたる議論を行ってきた。今般、その結果が「大規模災害における応急救助のあり方」としてとりまとめられたので公表するものである。

2.委員会の構成(◎は座長、○は副座長、△は起草委員)〈五十音順。肩書は発足当時〉
   芦尾 長司 兵庫県副知事
   鵜飼  卓 大阪市立総合医療センター副院長・救命救急センター所長
   碓井美智子 生活協同組合コープこうべ常勤相談役
 △ 小谷 直道 読売新聞社論説委員
 ○ 末次  彬 年金住宅福祉協会理事長
   根本 嘉昭 日本赤十字社事業局救護・福祉部次長
   早瀬  昇 大阪ボランティア協会理事・事務局長
 △ 松尾 武昌 全国社会福祉協議会常務理事
   松原 一郎 関西大学社会学部教授
 ◎ 三浦 文夫 日本社会事業大学大学院特任教授
   村田 幸子 日本放送協会解説委員

3.報告書の内容
  別添要旨のとおり。        …参考資料1 研究会報告のポイント

4.今後の対応
 報告書の提案を踏まえ、大規模災害に的確に対応するため応急救助のあり方を抜本的に見直すとともに、高齢者・障害者等の要援護者対策、ボランティアとの連携等のきめ 細かな対応が可能となるよう所要の措置を講じていく予定。
…参考資料2 研究会報告を受けた今後の対応

「大規模災害における応急救助のあり方」



T.応急救助をめぐる課題と視点
 ・ 阪神・淡路大震災は、応急救助を実施する観点から見ると、「大規模災害」、「大都市型災害」、「高齢社会型災害」、「長期型災害」、「複合型災害」、「豊かな社会における災害」という6つの特徴を有している。このような特徴から、応急救助の実施体制及び内容・方法、高齢者・障害者等要援護者への支援、ボランティア活動と行政の連携等の面で数多くの課題が提起された。
 ・ 本研究会では、@社会環境の変化に対応した応急救助、A大規模化、長期化した災害に対応した応急救助、B時間の経過によるニーズの変化に対応した応急救助、C応急救助の実施と併せた一般対策との連携による総合的な対応、Dボランティア活動と行政との連携方法を基本視点として検討を行った。

U.大規模災害における応急救助のあり方
 1 応急救助の実施体制
 自立的・広域的な災害救助体制の整備…行政職員の参集体制を確立し、災害救助担当職員の実践的研修を実施すること。地方公共団体間等の職員の派遣等に関する災害援助協定の締結、国の現地対策本部の設置等広域的な応援体制を整備すること。住民の自助努力…「自分の身は自分で守る」との認識の下、住民一人一人が平常時から3日分程度の食料、水等を備蓄すること。また、災害発生時には地域住民の相互協力が必要であること。地方公共団体は広報活動を通じ、この旨周知しておくこと。
 2 情報収集・提供
 多様な通信手段の確保…地方公共団体は、防災業務無線、衛星通信等多様な通信手段を確保し、被害情報を迅速に国や関係機関に連絡すること。被災者への迅速・的確な情報提供…掲示板、防災放送、広報車、パソコン、ファックス、ミニFM局等により、被災者ニーズに応じ迅速・的確に行うこと。特に、障害者や外国人に対しては、手話通訳、文字放送、外国語等によりきめ細かに情報提供すること。

 3 応急救助の内容・方法
 (1) 避難所の設置運営
 大規模災害に対応できる避難所の確保…学校、社会福祉施設や民間所有施設を避難所として確保し、あらかじめ住民に周知しておくこと。マニュアルの作成等運営体制の整備…管理責任者を配置し、被災者台帳の作成、安否の確認、被災者ニーズの把握等を行うこととし、そのための運営マニュアルを作成すること。また、被災住民やボランティアと一体となって運営すること。生活環境の整備充実…間仕切用パーテーション、洗濯機、テレビ、ラジオ、仮設風呂、簡易台所等を配置すること。また、衛生管理面の対策や電気容量の確保策を講じること。
 (2) 医療の提供
 救護班の編成と派遣…公立病院、地域医師会等の協力を得てあらかじめ救護班を編成するとともに、他の地方公共団体と救護班派遣に係る協定を締結しておくこと。
 救護班の支援体制…ヘリコプター等による重篤救急患者の広域搬送体制を整備するとともに、多数の患者を受け入れるためのスペースやヘリポートを備えた後方受入れ病院の整備に努めること。
 (3) 食料・水の供給
 援助協定の締結等による広域体制の整備…消費生活協同組合、スーパーマーケット、コンビニエンスストア等食品関係業者や他の地方公共団体との援助協定の締結等により、広域的な供給体制を整備すること。
 質の確保…大手弁当業者から地元食品製造業者の食料供給への移行、炊出し、集団給食施設の活用等により質(栄養バランスへの配慮、多様な食材、温かい食事の提供)   を確保すること。
 (4) 生活必需品の提供
 広域体制の整備…物品提供業者との協定の締結等広域的な供給体制を整備すること。
 (5) 遺体の処理・埋葬
 広域体制の整備…ヘリコプターを活用した搬送方法や他の地方公共団体との協力体制を整備すること。また、火葬場の被災状況、利用状況等のデータベースも整備すること。

 (6) 応急仮設住宅の設置
 建設用地の確保…地方公共団体内の公有地を確保するほか、国有地の無償貸付制度の活用、民有の建設可能用地の事前把握を行うこと。
 多様なタイプの供給・仕様の改善…世帯構成や健康の状況に応じ1K、共同住宅等の多様なタイプの供給を行うとともに、バリアフリー等の標準仕様を改善すること。
 コミュニティーづくりへの配慮…高齢者のみが集中しないよう入居時に配慮するとともに、広場の確保、入居者のコミュニティーづくりの拠点である「ふれあいセンター」(集合所)を一定数以上の団地に設ける等のルールづくりを行うこと。
 保健・医療・福祉サービスの提供…保健相談、仮設診療所・仮設保育所の設置、「こころのケアセンター」の設置、ホームヘルパーの派遣、ボランティア活動拠点の設置等を行うこと。
 撤去の費用負担等…設置期間の延長、撤去・復元等に係る費用負担のあり方を検討すること。

 4 高齢者・障害者等要援護者への支援
 災害時の安否確認、要援護者への情報提供…福祉事務所は介護サービスの受給者リストを整理するなどにより、常に要援護者の把握に努めるとともに、災害時には福祉団体、ボランティア団体の協力を得ながら安否確認を行うこと。また、掲示板、ファックス、広報誌、広報車のほか、点字・音声、手話・文字放送等多様な手段により情報を提供すること。
 避難所・応急仮設住宅での配慮…障害者用トイレの設置、バリアフリー仕様等構造上配慮すること。車椅子、おむつ、ガイドヘルパー・手話通訳者の派遣等の相談窓口を設置するとともに、物資や人材の確保に努めること。福祉サービスを受けながら生活できる「地域型仮設住宅」設置の取組みを進めること。
 「福祉避難所」の設置…災害時に要援護者を一時的に受け入れる「福祉避難所」(仮称)を設置すること。このような施設を地域防災計画に位置付け、災害救助基金による備蓄を行うとともに、あらかじめ災害時に利用可能なスペース、備蓄物資の把握を行うこと。
 福祉部局職員の確保…福祉部局が災害救助業務に忙殺されずに本来の要援護者対策が行えるよう職員を確保することとし、そのための災害時担当業務ガイドラインを定めること。
 保健・医療・福祉サービスの提供…平常時から保健・医療・福祉施策等の充実を進めること。2〜3日後から全避難所での要援護者の把握調査を行い、遅くとも1週間後を目途に保健・医療・福祉サービスを提供すること。

 5 ボランティア活動と行政との連携
 活動支援のためのガイドラインの作成等基盤の整備…ボランティア活動を評価し、行政機関とボランティアが協力できるよう活動支援のためのガイドラインを作成すること。また、活動拠点づくり、活動参加プログラムの開発、ネットワーク体制の整備等の地方公共団体による基盤づくりを進めること。
 コーディネート機能の強化…行政窓口やボランティアコーディネート機関を対外的に明確化すること。また、地方公共団体、社会福祉協議会等において平常時からコーディネーターを養成・配置するよう努めること。
 活動支援…ボランティア保険の紹介・普及、ボランティア基金、全国社会福祉協議会のボランティア募金、共同募金等による助成のほか、ボランティア団体への法人格の付与などの制度面を整備すること。

 6 救援物資・義援金
 救援物資のあり方・識別表示…古着など一般的に送り手にとって不必要なものは受け手にとっても不必要な場合が多く、物資より金銭の方が効果的なこと。また、この旨周知しておくこと。仕分けが容易に行えるよう品目別に発送し、識別票により内容表示を行う等工夫するとともに、物資の集積基地や配送ルートを確保すること。また、必要な種類と量を随時報道機関の協力も得て呼びかけること。
 義援金に関するガイドラインの作成…送り手が使用目的を明示して寄付をする「ドナーズチョイス」の導入を検討すること。また、これまでの災害時の経験を踏まえ、義援金の募集、配分基準・方法、公表のあり方等に関するガイドラインを作成し、国民各層のコンセンサスを得るようにしておくこと。


トップ|index|中川 和之