大規模災害における応急救助のあり方

平成8年5月

厚生省・災害救助研究会

目次

  はじめに                             

  第一章  我が国の応急救助の仕組み                 

  第二章  応急救助をめぐる課題                   

  第三章  大規模災害における応急救助のあり方            
   1.応急救助の実施体制                      
   2.情報収集・提供                        
   3.応急救助の内容・方法                     
   〔1〕避難所の設置運営                      
   〔2〕医療の提供                         
   〔3〕食料・水の供給                       
   〔4〕生活必需品の提供                      
   〔5〕遺体の処理・埋葬                      
   〔6〕応急仮設住宅の設置                     
   4.要援護者への支援                       
   5.ボランティア活動と行政との連携                
   6.救援物資・義援金の受入れと配分                
   7.その他の生活支援対策                     
  おわりに                              

   災害救助研究会検討経過                   
   災害救助研究会委員名簿                   

  資料
   1 報告書概要                       
   2 報告書要旨                       
   3 報告書ポイント                     
   4 今後の対応                       


目次へ戻る

はじめに

 
・ 平成7(1995)年1月17日午前5時46分、神戸市を中心に阪神地域や淡路島を襲った大震災は、我が国の地震災害として、大正12(1923)年の関東大震災以来の大被害をもたらした。おびただしい数の家屋やビルの倒壊、大火災の発生、電気、水道、ガス、通信等の長期にわたる壊滅、鉄道、道路等の都市交通基盤の損壊により、被災地域の人々は苦難な生活を強いられることになった。その被害状況は、例えば全壊・半壊等の住宅約40万棟、損害額は約10兆円と推定され、そして何よりも、6,300人を超える貴い人命が失われ、負傷者は約4万人、避難者は一時約32万人にも達した。

・ 今回の阪神・淡路大震災は、(1)被害の規模が極めて大きく、被災地域が広域に及んだ「大規模災害」であること、(2)人口が密集した大都市における「大都市型災害」であること、(3)犠牲者の約半数が60歳以上という「高齢社会型災害」であること、また、こうした災害の結果、(4)今なお多くの人々が応急仮設住宅で生活している「長期型災害」であること、(5)応急救助のみならず保健・医療・福祉サービスの提供といった面で多くの課題が提起された「複合型災害」であること、Eさらに、災害救助法が制定された当時と比べ、国民の生活水準が飛躍的に向上し、ボランティアが救援活動において重要な役割を果たした「豊かな社会における災害」であることなど、我が国がこれまで経験したことのない数々の特徴を有している。

 ・ 阪神・淡路大震災は、我が国の震災対策のあり方はもちろんのこと、危機管理体制、災害予防対策、震災復興の方策、安全な都市づくり等の面で多くの課題を提起している。災害救助制度との関係でいえば、この震災に対しては、災害救助法を適用し、避難所の設置、医療の提供、食料・水の供給、遺体の処理・埋葬、応急仮設住宅の建設等の応急救助が実施されてきた。
 しかし、予想をはるかに超えた大規模な災害、大都市型・高齢社会型災害であったことから、応急救助の実施体制、応急救助の内容・方法のあり方、高齢者、障害者、病人、乳幼児、妊産婦等で災害時に特別の配慮を要する、いわゆる「要援護者」に対する支援方法、ボランティア活動と行政との連携、救援物資・義援金の受入れと配分等の面で、災害救助制度に対する数多くの課題が提起されている。

 ・ 災害救助研究会は、こうした阪神・淡路大震災における貴重な経験を踏まえつつ、大規模災害における災害救助法を中心とする応急救助の実施上の諸問題や今後のあり方について、多角的な視点から総合的に検討を進めることを目的として設置されたものである。
 昨年11月に開催以来、阪神・淡路大震災において応急救助を行った兵庫県、神戸市、日本赤十字社、社会福祉協議会、ボランティア団体等の関係者からのヒアリングや被災地兵庫県の視察も含め、9回にわたり議論を重ねてきた。

 ・ 本研究会が、応急救助の実施上の諸問題を明らかにし、今後のあり方を検討する上で、基本的視点とした主なものは、次のとおりである。
(1) 生活水準の向上に伴う衣食住ニーズの多様化・高度化、高齢化、情報化、国際化、人口の密集化、建築物の高層化、地域コミュニティーの変化、国民や企業の社会参加意識の増大といった社会環境の変化に対応した応急救助の実施が必要であること
(2) 大規模化、長期化した災害に対応できる応急救助が必要であること
(3) 災害発生直後における対策、避難所の設置段階における対策、応急仮設住宅が建設された段階における対策というように、災害発生からの時間の経過によるニーズの変化に的確に対応した効果的な応急救助が必要であること
(4) 避難所の設置、医療の提供、食料・水の供給、遺体の処理・埋葬、応急仮設住宅の建設等の応急救助の実施と併せ、要援護者への支援、保健・医療・福祉サービスの提供、被災者への生活支援、各種相談体制の整備等の一般対策との連携による総合的な対応が必要であること
(5) 近年のボランティア活動への関心の高まりを踏まえ、災害時におけるボランティア活動と行政との連携が必要であること

 ・ 本報告書は、こうした基本的視点を基に、検討した結果を取りまとめたものである。
 今後、本報告書で提案している内容が、我が国の災害救助行政の一層の充実に資するとともに、広く国民の参考となり、災害に対する心がまえを育む一助になることを願うものである。



目次へ戻る

第一章


 我が国の応急救助の仕組み


〔1〕災害対策の基本的枠組み

・ 災害対策は、災害予防、災害応急対策から災害復旧に至るまで、非常に広範多岐な分野にわたっており、我が国においては、大規模な災害に数多く見舞われた経験を踏まえて、これまで、災害救助法(昭和22年法律第118号)を はじめ、個別の法律を制定することにより、これら各般にわたる災害対策に関する制度の整備が図られてきた。
 しかし、昭和34年の伊勢湾台風を契機として、総合的かつ計画的な防災行政体制を整備しようという機運が高まり、昭和36年11月に災害対策基本法(昭和36年法律第223号)が制定された。

 ・ 災害対策基本法は、災害対策についての国、都道府県、市町村及び住民の責務について定めるほか、防災体制、防災計画、災害予防、災害応急対策、災害復旧対策、財政金融措置等災害対策についての基本的事項について規定しているが、他の災害対策に関する法律に対して一般法の性格を有しており、防災に関する 事務であって他の法律に定めのないものについては、災害対策基本法の定めるところにより処理される(災害対策基本法第10条参照)。

 ・ したがって、今日の我が国における災害対策は、災害対策基本法を中心とした災害対策に関する多数の法律及び同法に基づき定められた防災基本計画、防災 業務計画及び地域防災計画に従って、総合的かつ計画的に行われている。

〔2〕災害応急対策の仕組み

 ・ 災害応急対策とは、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、災害発生の防御又は拡大の防止を図るため、国及び地方公共団体の機関並びに公共機関が実施する各種の対策又は措置であり、災害対策基本法上、次の事項について実施するものとされている(災害対策基本法第50条)。

ア 警報の発令及び伝達並びに避難の勧告又は指示に関する事項(気象業務法、消防法、水防法等)
イ 消防、水防その他の応急措置に関する事項(消防法、水防法等)
ウ 被災者の救難、救助その他保護に関する事項(災害救助法、水難救護法、日本赤十字社法、警察官職務執行法、消防法等)
エ 災害を受けた児童及び生徒の応急の教育に関する事項(学校教育法等)
オ 施設及び設備の応急の復旧に関する事項(水道法、道路法等)
カ 清掃、防疫その他の保健衛生に関する事項(廃棄物の処理及び清掃に関する法律、伝染病予防法等)
キ 犯罪の予防、交通の規制その他災害地における社会秩序の維持に関する事項(警察官職務執行法、道路法、道路交通法等)
ク 緊急輸送の確保に関する事項(道路法、道路交通法等)
ケ アからクまでに掲げるもののほか、災害の発生の防御又は拡大の防止のための措置に関する事項

 ・ なお、災害対策基本法上も、災害応急対策は防災組織の整備、防災訓練等災害の発生を未然に防止するために行う災害予防や災害が一応終了した後の原状復旧を図る災害復旧とは明確に区別されている。

 ・ 災害応急対策は、消防法(昭和23年法律第186号)、水防法(昭和24年法律第193号)、警察官職務執行法(昭和23年法律第136号)、伝染病予防法(明治30年法律第36号)、水難救護法(明治32年法律第95号)、気象業務法(昭和27年法律第165号)、道路法(昭和27年法律第180号)、電気通信事業法(昭和59年法律第86号)等多数の法律及び防災計画に基づき行われる。
 災害救助法に基づき行われる応急救助は、「被災者の救難、救助その他保護に関する事項」について行われる災害応急対策に該当する。

〔3〕災害救助法による応急救助

 ・ 災害救助法による応急救助は、災害に際し、個人の基本的生活権の保護と全体的社会秩序の保全を目的として、食料品その他生活必需品の欠乏、住居の喪失、傷病等に悩む被災者に対する応急的、一時的な救助として行われるものであることから、災害の規模が個人の基本的生活権と全体的な社会秩序に影響を与える程度の大規模なものであるときに実施される(災害救助法第1条及び第2条並びに同法施行令第1条)。
 このようなことから、災害救助法による応急救助は、国の責任において行うこととされており、具体的には、都道府県知事が国の機関として応急救助を実施し、市町村長がこれを補助する(災害救助法第2条及び同法施行令第8条)。
 また、これに要した費用についても、救助を実施した都道府県が原則として支弁するものの、その負担能力に応じて最高9割まで国が負担する。

 ・ さらに、被災都道府県知事だけの力では応急救助を十分に行うことができない場合には、厚生大臣は他の都道府県知事に対して応援を命令できるほか(災害救助法第31条)、当該都道府県知事は他の都道府県知事に対して応援要請(災害対策基本法第74条第1項)や自衛隊の部隊等の派遣要請を行うことができる(自衛隊法第83条1項)。

 ・ 災害救助法による応急救助は、被災者に対する応急的、一時的な救助という趣旨から、次の事項について行われる(災害救助法第23条及び同法施行令第9条)。

 ア 避難所及び応急仮設住宅の供与
 イ 炊出しその他による食品の給与及び飲料水の供給
 ウ 被服、寝具その他生活必需品の給与又は貸与
 エ 医療及び助産
 オ 災害にかかった者の救出
 カ 災害にかかった住宅の応急修理
 キ 生業に必要な資金、器具又は資料の給与又は貸与
 ク 学用品の給与
 ケ 埋葬
 コ 死体の捜索及び処理
 サ 災害によって住居又はその周辺に運ばれた土石、竹木等で、日常生活に著しい支障を及ぼしているものの除去



目次へ戻る

第二章

 

応急救助をめぐる課題


1.阪神・淡路大震災の特徴

 今回の震災の特徴を、応急救助を実施する観点から整理すると次のとおりである。
 

(1) 大規模災害

 人口が密集した神戸・阪神地域等の大都市直下において、地震が発生したことにより、死者6,308人、全壊家屋10万302棟(平成7年12月27日現在)という大きな人的・物的被害をもたらしたこと。また、兵庫県及び大阪府の25市町に災害救助法が適用されるなど被害地域が広域に及んだこと。
 

(2) 大都市型災害

 大都市直下で発生した地震であったため、電話等の通信手段が壊滅したことにより、災害発生直後、被害状況の把握やそれに基づく国や他の地方公共団体への連絡といった、初動期における情報の収集・伝達が円滑に行えなかった。
 また、公共交通機関の途絶や道路の寸断により、食料、生活必需品、医薬品等の物資輸送が困難となった。
 さらに、応急救助の実施主体である地元地方公共団体自らが被災し、庁舎や設備が損壊するとともに、職員自らの被災に公共交通機関の途絶も加わり、応急救助を実施するはずの職員が出勤できなかった。このようなことから、被災地方 公共団体だけでは十分に応急救助を実施できず、国や被災地外の地方公共団体の支援が必要になったこと。
 

(3) 高齢社会型災害

 近年の急速な高齢化の進行によって高齢者、とりわけひとり暮らし老人が増加する中で発生した災害であった。このため、要援護者に対する保健・医療・福祉サービスの提供、生活支援対策、コミュニティー対策等のきめ細かな施策が必要になったこと。
 また、以上のような大規模、大都市型、高齢社会型の災害であったため、さらに、次のような特徴をもたらすこととなった。
 

(4) 長期型災害

 人口が密集した高齢化率の高い既成市街地において災害が発生したため、家屋の倒壊や焼失により、避難者は最大時約32万人、応急仮設住宅の建設戸数も約5万戸に達するなど、膨大な数の人々が避難所や応急仮設住宅での生活を余儀なくされた。その結果、大震災の発生から1年を経過した現段階においてもなお、約9万(平成8年4月1日現在)の人々が応急仮設住宅での生活を余儀なくされるなど、被災の影響が長期に及んでいること。
 

(5) 複合型災害

 高齢社会における大規模で大都市型、長期型災害であったため、避難所の設置、医療の提供、食料・水の供給、遺体の処理・埋葬、応急仮設住宅の建設等の応急救助の実施は困難を極めた。併せて住家の被害認定、罹災証明書の発行、要援護者への支援、保健・医療・福祉サービスの提供、ボランティアとの連携、救援物資・義援金の受入れや配分、被災者の生活支援対策といった面で多くの行政需要が同時に発生し、これらに対して応急救助及び保健・医療・福祉分野の一般対策による総合的な取組みが必要となり、その対応が困難を極めたこと。
 

(6) 豊かな社会における災害

 災害救助法が制定された昭和20年代と比べ、現在は、国民の生活水準が飛躍的に向上し、物資にあふれた「豊かな社会」となっており、日常の生活状態を 反映して、災害救助法に基づく応急救助の内容について数多くの要望や不満が 出されたこと。
 一方、ボランティア活動への関心の高まり、ボランティア団体等のNPO(非営利組織)の活動水準の向上、企業の社会貢献活動等の進展を背景として、全国各地から延べ140万人ものボランティアが被災地へ駆けつけ、被災者への生活支援を始めとする救援活動においてめざましい活躍をみせた。このようなボランティア活動は、既存の制度にとらわれない機動性、柔軟性、多様性等を救援活動の中で発揮したが、一方で多数のボランティア活動の調整、行政との情報の交換や連絡、活動基盤への経済的支援等の面でボランティア活動に対する課題も浮き彫りにされたこと。

2.阪神・淡路大震災における問題点とこれに対する課題


 今回の災害では、災害救助法が適用され、被災地方公共団体は、国や他の地方 公共団体、ボランティアの支援の下に、避難所の設置を始め、医療の提供、食料・水の供給、遺体の処理・埋葬、応急仮設住宅の建設等の懸命の応急救助活動を実施してきた。
 しかし、我が国がこれまで経験したことのない特徴を有する、予想をはるかに 超えた災害であったため、応急救助を実施する過程で様々な問題も発生し、今後の応急救助のあり方について数々の課題が提起されることとなった。

 これを整理すると次のとおりであるが、今回の災害での反省や教訓を生かし、今後の対応策を明らかにしておくことが必要である。
 

(1) 応急救助の実施体制

 今回の災害では、災害救助法による救助の実施主体である地元地方公共団体自らが被災し、災害発生直後は職員が確保できなかったことや通信の途絶により、行政機関としての中枢機能を喪失する状況になった。
 このため、このような大規模・大都市型災害を念頭に置いて、職員参集等の初動体制や代替庁舎の確保を含め地方公共団体による応急救助の実施体制及び 情報収集・提供体制を整備しておくことが必要である。
 

(2) 応急救助の内容・方法のあり方

 今回の災害では、被災者が膨大な数にのぼったため、あらかじめ指定された避難所だけでは被災者を受け入れられなかったこと、被災者の出入りが流動的で避難所での人員の正確な把握が困難であったため、災害発生直後には十分な量の食料・水を供給できなかったこと、救護班の派遣要請が迅速に行われず、その派遣が遅れたこと等、災害発生直後の応急救助の面で数多くの問題が生じた。
 また、応急仮設住宅についても、被災地の近くに建設できなかったこと、応急仮設住宅での生活の長期化に伴いコミュニティー対策が求められたこと、さらに、その撤去費等の費用負担をどうするかといった問題が生じた。
 このため、これらの教訓を踏まえ、今後のあるべき応急救助の内容や方法を明らかにしておくことが必要である。
 

(3) 生活水準の向上等に対応した応急救助のあり方

 「豊かな社会」において発生した災害であったため、被災者の生活支援となる応急救助の内容について、例えば、避難所の暑さ寒さ対策、プライバシーの確保、被災者に提供される食事の内容(メニューが単純で栄養バランスが悪い、冷たい、高齢者への配慮が足りない)、応急仮設住宅の設備等に関し数多くの不満や要望が出された。
 このため、こうした生活水準の向上を背景とする不満や要望に可能な限り応えられるような応急救助の内容や方法を明らかにしておくことが必要である。
 

(4) 要援護者に対する支援のあり方

 今回の災害では、自宅や避難所における要援護者の被災状況の把握が遅れたこと、応急仮設住宅への入居について要援護者を優先した結果、要援護者が集中する応急仮設住宅が発生したこと、障害者に対し情報が正確・迅速に伝わらなかったこと等の問題が生じた。
 このため、高齢社会時代の大規模・長期型災害において、要援護者に対してどのように対応すべきかについて明らかにしておくことが必要である。
 

(5) ボランティア活動と行政との連携のあり方

 今回の災害では、全国各地から多くのボランティアが被災地へ駆けつけ、避難所を始めとする様々な場において、被災者の安否確認、物資の仕分け・搬入・搬出、避難所の運営、食事の炊出し等の多種多様なボランティア活動が展開され、応急救助の実施に大きな役割を果たしたことが特徴のひとつであった。
 しかし、これら延べ140万人にも及ぶボランティアの参加は我が国の災害史上初めてのことでもあり、災害発生直後に行政機能が混乱する中で、その力を十分生かしきれない面があった。
 このため、大規模災害におけるボランティアと行政との連携・協力、活動支援のあり方について明らかにしておくことが必要である。
 

(6) 救援物資・義援金の受入れや配分のあり方

 今回の災害では、全国から膨大な量の救援物資が送られ、被災者への生活支援に大きく貢献したが、一方で、救援物資の仕分けや配分に膨大な時間と労力を要したこと、利用に適さない物資も大量に送られてきたことが指摘されている。また、前例のない多額の義援金が全国から寄せられたが、その配分の内容や方法をめぐり、いくつかの問題が浮上した。
 このため、大規模災害において、国民各層の善意を有効に生かすことができるよう、救援物資や義援金の受入れ・配分方法について明らかにしておくことが必要である。

 このほか、被害認定や生活支援対策のあり方についても明らかにしておくことが必要である。


目次へ戻る

第三章

 大規模災害における応急救助のあり方

 阪神・淡路大震災の経験を踏まえ、大規模災害の発生を想定し、今後、以下の指摘や提言に基づいた施策を積極的に推進すべきである。

目次へ戻る

1.応急救助の実施体制

・ 今回の災害では、神戸・阪神地域の行政・経済の中枢が被災したため、公共交通機関の途絶に加え、職員やその家族が被災したことにより、職員が出勤できず応急救助活動を実施する要員が不足した。
 このため、大規模災害による公共交通機関の途絶、職員やその家族が被災する 状況の中で、迅速に応急救助を実施するための職員の確保とともに、他の地方公共団体による広域的な応援体制を整備することが必要である。

・ しかし、行政による組織的な応急救助活動が行われるまでには一定の時間を要することは避けられない。このため、「自分の身は自分で守る」という自助努力の精神に基づいて、平常時から住民一人一人にあっても自ら避難所とそこに行く経路の確認、非常時の持出品(懐中電灯、ラジオ等)の準備はもとより、3日分程度の食料・水、生活必需品、常備薬等の備蓄に努めることが望ましい。
 また、災害が発生した場合には、「地域の人々は地域で守る」という精神によりあらかじめ組織化された自主防災組織を通じ、地域住民が相互に協力し合い、負傷者の救出、安否確認、要援護者への支援、避難所の運営といった面で、個人や地域コミュニティーでできる限り対応することが望ましい。
 このため、地方公共団体は、こういった点について平常時から広報活動を通じて住民に周知しておくことが必要である。
・ なお、大規模災害においては、大量の救助要員や緊急物資を被災地へすみやかに輸送できるかどうかが応急救助活動の成否を左右する。したがって、災害の発生直後、直ちに利用可能な交通ルートを把握し、緊急輸送車両以外の交通規制を行い、被災地域周辺を含めた広域的な緊急輸送ルートを確保するとともに、車両、船舶、ヘリコプター等利用可能なあらゆる輸送手段を利用し、人や物資等の緊急輸送を行うべきことは言うまでもない。

〔1〕地方公共団体における実施体制の整備
(1) 地方公共団体自身による職員の確保

 ・ 今回、勤務時間外である早朝に大規模な災害が発生したため、家屋の倒壊や焼失により地方公共団体の職員自身が被災したこと、道路、鉄道等の交通網が 途絶し、出勤が困難であったことから、震災当初は応急救助を実施する職員が 十分には確保できなかった。このような場合、他の地方公共団体に対し、応援 職員を要請することとなるが、応援職員による応急救助活動が開始されるまでには一定の時間を要することは避けられない。

 ・ このような経験を踏まえ、大都市直下で地震が発生し行政の中枢機能が被災した場合にあっても、まず、被災地方公共団体が自らの職員を確保することが基本であると考えられる。
 このため、地方公共団体の職員は、大規模な災害が発生し、又は発生する おそれのある場合には、指示を待つことなく直ちに決められた場所に自発的に 参集し、直ちに応急救助活動を行う体制をあらかじめ整備しておくことが必要である。
 また、大規模災害時には、交通の途絶が予想されることから、地方公共団体の職員は平常時からできるだけ勤務場所への複数の交通手段(バイク又は自転車)を確保しておくことが必要である。
 なお、災害の長期化に対応するため、交替要員を確保することも必要である。
 

(2) 災害救助担当職員の資質向上

 今回の被災地は、近年、大規模災害の発生が少なかった地域であったため、 災害に対する意識や備えが十分でなく、災害業務に精通した職員が少なかった ことも反省すべき点である。応急救助の迅速な実施に当たっては、災害業務に 精通した職員の存在が不可欠である。
 このため、災害対策基本法や災害救助法等の災害に関する法制度、過去の大規模災害における取組みや課題、防災関係機関との連絡や調整方法等の災害に関する総合的な知識を高め、災害時に適切な行動がとれる職員の養成を図ることが 必要である。なお、この場合、大規模災害を経験した実践経験豊かな職員がいる場合には、その活用も考えられる。
 

(3) 市町村福祉部局の実施体制の整備

 応急救助の業務の多くは、応急救助を所管する市町村の福祉部局が担当することとなるが、今回の災害では同時に膨大な業務が集中したために、例えば、福祉事務所が本来の福祉業務ができずに物資の受入れ・配分、遺体の確認や安置等の応急対応に追われたり、本庁からの指揮命令系統に混乱が生じたといった問題がみられた。
 このため、非常災害時においても、本来の福祉業務が可能な限り円滑に実施 できるように、市町村福祉部局において担当職員を確保するほか、福祉行政に 対する庁内関係部局による協力体制をあらかじめ決めておくことが必要である。

〔2〕広域的な応援体制の整備
 (1) 地方公共団体間の災害援助協定の締結

  今回の災害では、全国の地方公共団体から多数の職員が被災地に入り、応急救助の一翼を担った。神戸市を例にとると、福祉部局だけで平成7年6月末までに延べ約8,000人にも達する規模であった。このような経験からみても、被災地周辺を中心に、他の地方公共団体からの職員の迅速・的確な派遣は不可欠であり、地方公共団体は、広域的なブロック単位で、あらかじめ人員派遣に関して他の地方公共団体と災害援助協定の締結を進めることが必要である。なお、この際には併せて、食料・水その他の必要物資の支援についても対象とし、総合的な災害援助協定とすることが必要である。
 被災地外の地方公共団体は、災害が発生した場合、この協定に基づき、被災地方公共団体の要請又は自らの判断により、職員や物資を迅速に派遣・供給することが必要である。
 

(2) 国による支援

 (現地対策本部の設置)
 今回の災害では、政府が被災地に現地対策本部を設置し、災害対策に関する事務を現地において迅速に処理するとともに、被災地方公共団体への支援や助言を行った。
 また、厚生省が独自に現地対策本部を設置し、応急給水を確保するため全国的に水道事業者や関係団体に応援要請を行うとともに、国立病院、日本赤十字社、自衛隊や他の地方公共団体からの救護班の派遣を調整するなど、国、県、市町が緊密に連携しながら一体となった活動が展開された。
 このような経験を生かし、国は被災地方公共団体の行政機能に支障が生じ、応急救助を的確に遂行することができないと判断される場合は、被災地方公共団体にすみやかに現地対策本部を設置し、被害状況の把握、広域的対応を中心とした被災地方公共団体に対する支援を行うことが必要である。

 (他の地方公共団体の職員の派遣要請)
 国は今回、被災地外の地方公共団体に対して、福祉事務所のケースワーカー、保健婦等の職員の中長期的な派遣を要請し、被災地の応急救助活動を支援してきたが、今後、被災地方公共団体の行政機能が著しくマヒしていると判断される場合には、国は被災地方公共団体からの要請又は自らの判断により他の地方公共団体に対し、職員の派遣要請を行うことが必要である。
 

(3) 災害経験地方公共団体による支援

 今回の災害では、災害発生直後に北海道、長崎県等から災害救助業務の経験を有する職員の派遣を受け、様々な支援や助言を得たが、被災経験の少なかった地元地方公共団体にとってこのような支援活動は大きな意義があった。
 このため、災害経験のある地方公共団体は、国の要請に基づいて、当該職員を被災地方公共団体へ派遣し、応急救助活動の支援や助言を行うことが望まれる。なお、このため、災害を経験した地方公共団体は、応急救助の実践経験豊かな職員を随時把握しておくことが必要である。

〔3〕政令指定都市の位置付け

 現在、災害救助法による応急救助の実施主体は都道府県知事であり、市町村長がこれを補助することとなっているが、今回、例えば、応急仮設住宅の建設に際して、兵庫県と神戸市との間で調整に時間を要し迅速性を欠いた面があったことが指摘されている。また、平常時の一般対策は市町村で実施していることとの整合性から、政令指定都市も都道府県と同様に応急救助の実施主体としてはどうかという意見がある。

 ・ 政令指定都市を応急救助の実施主体とすることについては、住民に最も近い身近な行政主体であるため、住民ニーズに直結した迅速・的確な応急救助の実施が可能になること、平常時の一般対策の実施主体であり、平常時と非常時の整合性がとれることといった長所がある反面、今回の災害のように政令指定都市の区域を超えて被害が広域に及んだ場合、市町村の区域を超えた広域的な応急救助が難しいといった短所もある。

 ・ このように、この問題については、それぞれに長所と短所が考えられること、また、地方公共団体関係者からも賛否両面の意見があることもあり、今後、関係地方公共団体や関係省庁と十分協議しつつ、総合的な観点から、さらに検討することが必要である。


目次へ戻る

2.情報収集・提供

 今回、大都市直下の地震による大規模災害であったため、電話等の通信手段の寸断、地方公共団体自身の被災による防災通信回線のマヒ、職員自身の被災による要員の不足により、当初、被害状況の把握や関係機関への連絡が円滑に行われず、初動期の迅速・効果的な対応に支障が生じた。
 このため、大規模災害に備えて、市町村、都道府県、国相互の情報の収集・連絡体制を整備することが必要である。
 また、被災者への情報提供についてみても、情報提供機能が壊滅したこと、デマによる誤った情報が伝達されたこと、障害者に対して的確な情報が提供されなかったといった問題が生じた。また、ボランティア団体である「外国人地震情報センター」には外国人から、平成7年6月末までで800件近い相談があった。
 このようなことから、今後、障害者や外国人を含め被災者に対する正確で迅速な情報提供を行うことが必要である。

 〔1〕被災地方公共団体による情報収集・連絡

  (被害情報の迅速な把握と連絡)
 災害時における初期情報は、応急救助を迅速・効果的に実施する上で不可欠であることから、被災地方公共団体は、被害情報を迅速に把握し、被災住民はもとより国や関係機関へ迅速に連絡することが必要である。
 特に、大規模災害により被災地方公共団体において、被害情報の把握が困難な場合は、隣接する地方公共団体が、国からの要請又は自らの判断で概括的に被害情報を把握し、被災地方公共団体、国や関係機関へ情報発信する体制を 確立しておくことが必要である。

  (多様な通信手段の確保)
 地方公共団体は、災害時の情報収集・連絡が円滑に行われるよう、あらかじめ防災業務無線、衛星通信システム、緊急回線等の多様な通信手段を確保しておくことが必要である。
 またその際には、災害時の停電の場合にも機能するよう、バックアップシステムを整備しておくことが必要である。
 なお、これらの機器が操作できるよう、平常時から当該職員に対する研修や訓練を行うことが必要である。

 〔2〕被災者への的確な情報提供

  (多様な情報提供手段の活用)
 災害発生直後は、通信手段の寸断から口コミによる情報伝達が中心となる結果、デマによる誤った情報が伝えられやすいことから、情報の混乱を防止し被災者の生活を支援するためには、行政による正確で迅速な情報提供が必要である。
 このため、避難所への掲示、防災放送、広報車、広報誌(災害対策本部ニュ−ス)、ラジオ、テレビ(緊急テロップ)、新聞、パソコン通信、ファックス通信、ミニFM局等の多様な手段を活用して情報を提供するとともに、避難所にラジオ、テレビを迅速に配備することが必要である。

  (障害者や外国人への情報提供)
 災害時、障害者にはなかなか情報が伝達されにくいことから、聴覚障害者のための掲示板、ファックス、手話通訳、文字放送や視覚障害者のための点字による情報提供を行うことが必要である。
また、外国人の中には、日本語を解せない場合や、被災地の地理や事情に不慣れなことから、必要な情報を得ることが困難な場合もあると考えられる ため、外国語による情報提供、通訳を配置した外国人向けの相談体制を整備することが必要である。

  (被災者ニーズに即した情報提供)
 今回の災害で明らかになったように、被災者が必要とする情報は、(1)災害発生直後に必要な、避難所、避難所への安全な経路、家族の安否等の避難に関する情報、(2)避難所の生活において必要な医療、食料・水、生活必需物資、罹災証明、応急仮設住宅の申込み、ライフラインの復旧状況等の情報、(3)応急仮設住宅の生活において必要な保健・医療・福祉サービス、生活支援のための各種の融資・貸付金制度、就労対策、コミュニティーづくり等の情報、(4)公営住宅等の恒久住宅の建設計画やその進捗状況、入居申込みに関する情報というように、災害発生から時間の経過に伴い刻々と変化していく。
 このため、被災地方公共団体は、被災者ニーズに即した情報を、的確に提供していくことが必要である。特に、被災後一定の時間が経過した際には、恒久住宅の建設計画等の被災者が将来に展望を持って安心して生活ができるような情報を提供することが必要である。


目次へ戻る

3.応急救助の内容・方法

〔1〕避難所の設置運営

 今回、予想を超える大規模な災害であったため、避難所の数がピーク時には 兵庫県で1,153箇所、大阪府で82箇所、避難人員は兵庫県で約32万人、大阪府で約4,000人にものぼり、避難所の設置場所も学校、地域福祉センター等にとどまらず、公園、市役所等多種多様に及んだ。
 この結果、被災者数が多くあらかじめ定められていた避難所だけでは不足したこと、一部の避難所では管理責任者が不在であったため避難所での被災者の状況把握が遅れたこと等の問題や、避難所での生活の長期化に伴い、入浴の確保、プライバシーの確保等の生活の場としての環境の整備の課題が明らかになった。

 このような問題や課題に対し、公的宿泊施設、旅館、ホテル等の借上げによる避難所としての位置付け、生活環境対策としての仮設トイレや仮設風呂の設置、し尿処理、暑さ寒さ対策、プライバシーの確保、兵庫県職員と警察官からなる「避難所緊急パトロール隊」による被災者の実態把握や安全確保等の対応措置が講じられた。

 (1) 大規模災害に対応できる避難所の確保

 今回の災害においては、被災者が多く、あらかじめ指定された避難所だけでは不足したことから、大規模災害による被害想定に基づき、これに対応できる避難所を量的に確保した上であらかじめ指定し、住民に周知しておくことが必要である。なお、避難所には、可能な限り耐震構造の優れた施設を指定することが必要である。

 (教育施設の利用)
 今回、被災者の多くが学校に避難したが、これまで学校は地域コミュニティーの中核として大きな役割を果してきた。このため、避難所として使用する施設の一つとして学校が挙げられる。
 学校を避難所として指定する場合には、学校は教育活動の場であり、避難所としての機能は応急的かつ付加的なものである点を考慮し、教育委員会等の関係部局と十分に協議しておくことが必要である。また、避難所として指定した学校には、当面の避難生活に必要な食料・水等を備蓄しておくべきである。なお、現在、学校の防災機能は必ずしも十分とはいえず、その一層の充実が必要である。

 (社会福祉施設の利用)
 社会福祉施設については、当初、地域住民の避難所として活用するが、その後できる限りすみやかに避難所を集約し、特に、高齢者や障害者などの特別の配慮や援助を必要とする要援護者のための専用の避難所として位置付けていくことが必要である。(「社会福祉施設における要援護者対策」の項で詳述)

 (その他の公共施設の利用)
 官公庁の庁舎、公民館、福祉センター、スポーツセンター、図書館等の公共施設も避難場所として想定されるが、応急救助を円滑に実施するためには、被災地方公共団体の行政のみならず、自衛隊、被災地以外の地方公共団体からの応援職員やボランティアの活動拠点として使用することも考えられることから、これらの公共施設については段階的な指定を検討することが必要である。

 (民間施設の利用)
 都市化の進んだ人口密集地域においては、企業所有の施設や他の地方公共団体との災害援助協定による避難所の確保も必要である。

 (指定避難所の周知徹底)
 あらかじめ指定した避難所については、どの地区の住民がどの場所に避難すべきかを明確にした上で、その一覧表を住民に対して配布するなどにより、随時その周知徹底を図ることが必要である。なお、避難所として指定した施設については、避難所である旨を明確に表示しておくことも必要である。

 (指定避難所以外の被災者への援助)
 今回の災害においては、公共施設のうちで指定された避難所だけでは対応しきれず、主に民間施設を利用した自主的な避難場所も多数発生したが、被災地方公共団体は、これら指定避難所以外の避難所についても、道路の状況に応じバイク、自転車等の有効な移動手段を確保し、被災者の避難状況の把握に努めるとともに、食料や物資の供給を的確に行っていくことが必要である。
 なお、このような状況により発生する避難所としては、今回の災害に見られるように、公園等の屋外において被災者がテント等を設営する場合が想定されるが、これらについてはすみやかに仮設トイレや仮設風呂等の設備の整った指定の避難所に集約することが必要である。

 (2) 避難所の運営体制の確保

 今回の災害においては、避難所の設置場所が多種多様かつ広域であり、中には管理責任者が不在であったことや、混乱の中で被災者台帳の整備が追いつかなかったことから、避難所の被災世帯の構成、ニーズの状況が長期間把握できなかった。このため、避難所の運営体制を確保することが必要である。

 (管理責任者の配置)
 今回、管理責任者が不在であった避難所では、被災者の状況把握が遅れ、食料・水、物資の供給、要援護者の支援等が適切に行われなかった面があったことから、避難所を設置した場合には、各避難所に管理責任者として行政職員を常駐させ、避難所の運営を行うことが必要である。
 しかし、今回の災害のように、行政職員自身も被災し、膨大な応急救助業務のためにこれらの要員が確保できない場合には、避難所の本来の施設管理者を充てることも必要である。この場合、管理責任者は当分の間、昼夜の対応が必要となるので、できるだけ交替ができるような体制を確保することが必要である。

 (被災者台帳の整備)
 避難所の管理責任者は、避難所に避難した被災者の人数、世帯構成、被害状況、要援護者を早急に把握し、被災者台帳を整備することが必要である。
 なお、被災者の状況について迅速に把握できるよう、地域住民による自治会 組織や自主防災組織をあらかじめ育成することも必要である。

 (管理責任者の役割の明確化)
 避難所の管理責任者は、被災者台帳に基づき、常に被災者の実態を把握し、安否確認やニーズ把握を行うとともに、特に、要援護者については、必要に応じてホームヘルパーの派遣や社会福祉施設への緊急入所の要請を行政の福祉担当部局に行うことが必要である。
 また、常時、災害対策本部や近接する他の避難所と連絡をとり、食料・水、その他必要な物資の過不足の確認を行うことが必要である。
 なお、都道府県においては、あらかじめマニュアルを作成し、避難所の管理責任者の役割を明確にしておくなど、市町村の支援を行うことが必要である。

 (被災住民と一体となった運営の確保)
 避難所の円滑な運営のためには、管理責任者である行政職員が調整役となって、従前のコミュニティー組織やボランティアの協力を得て、避難住民の理解と協力の下で運営されることが必要である。一方、避難住民は、避難所内での生活をより清潔、安全、快適なものとするために、早急に避難住民の代表を選出するなどにより、管理責任者と協力して避難生活の秩序づくりに努めることが望ましい。

 (巡回パトロールの実施)
 今回、兵庫県職員と警察官からなる「避難所緊急パトロール隊」を100班編成して各避難所を定期的に巡回したことが被災者のニーズ把握や防犯対策に有効であった。今後、この経験を生かし、地方公共団体は警察と連携した避難所へのパトロールを実施することが必要である。また、被災者にあっても避難生活を 安心したものにするために、コミュニティー組織を活用して自警団を組織することが有効である。

 (3) 避難所での情報提供

 災害発生直後は、停電のためにテレビの視聴も思うようにならず、ラジオを所持している被災者も限られており、行政の広報が開始されるまで、いわゆる「情報飢餓」の状況にあった。災害時に被災者に必要とされる情報としては、被害の状況や安否に関する情報と食料・水の供給時間や場所、救援物資や義援金の配分手続等の生活に関する情報があるが、行政の広報が行われるまでの間は、マスコミやミニコミが生活情報の提供を補完していた状況であった。このため、行政自らが避難所の被災者に対してあらゆる広報手段を活用してニーズに即した情報を迅速に提供することが必要である。

 (多様な情報提供手段の活用)
 被災地方公共団体は、避難所への掲示、防災放送、広報車、広報誌の活用により、正確な情報を迅速に提供することが必要である。この場合、ラジオ、テレビ、新聞といったマスコミの協力を最大限得ることに加え、パソコン通信やファックス通信、ミニFM局等の多様な手段についても必要に応じ活用することが必要である。
 また、避難所にはラジオ、テレビを迅速に配備するとともに、被災者が連絡用に用いる電話やファクシミリの配備は有益であることから、通信事業者の協力を得て今後もこのような取組みが行われることが必要である。

 (4) 避難所の生活環境の整備充実

 避難所の設置に伴い、まず、寝具、被服、日用品の配布、仮設トイレの配備が必要となるが、今回の災害のように避難所の設置期間が長期化した場合には、プライバシーの確保、暑さ寒さ対策、入浴の確保、洗濯の機会の確保等の生活 環境の改善対策を講じることが必要である。

 (避難所生活に必要な設備、備品の配置)
 今後、大規模な災害により避難所の設置が長期化すると見込まれる場合は、必要に応じて、(1)畳、カーペット、(2)間仕切用パーテーション、(3)更衣室、(4)洗濯機、乾燥機、(5)テレビ、ラジオ、E簡易シャワー、仮設風呂、F扇風機、網戸、Gストーブ、暖房機、H炊出しのための簡易台所等の設備や備品を配備するほか、このような設備類を備えた避難所を維持していくための衛生管理面の対策や電気容量の確保も必要である。


目次へ戻る

〔2〕医療の提供

・ 応急救助としての医療の提供の中心は救護班活動であるが、今回の災害の場合、兵庫県の資料によれば、震災当日は日本赤十字社等により17班が現地入りし、続く1月18日から22日にかけて183班が現地入りしている。さらに、23日からは国の現地対策本部により一元的な受入れ調整が行われたこともあり、救護班の派遣は、災害発生から1か月後の2月17日までで延べ8,697班、43,485人にのぼった。

・ 今回の災害における救護班による医療活動についての問題点としては、まず、その初動期、特に、災害発生直後の概ね3日以内については、通信の途絶により、負傷者の状況、診療可能な医療機関の把握が困難であったこと、災害の規模の大きさ・激甚さのために、被災地内の医療機関も被災し、診療機能が低下したことにより、被災地のみでは対応しきれなかったこと、災害発生直後の混乱により、被災県からの救護班の派遣要請が迅速に行われなかったこと等が挙げられる。
 しかし、被災地内の医療機関は、限られた機能により可能な限りの医療を提供し、被災地外からは、被災地方公共団体の要請を待たずに災害援助協定又は自らの判断に基づいて、被災地に入り活動した救護班もあり、その活動は高く評価 されている。

・ また、今回の災害では、多くの重篤な救急患者が発生したが、被災地の医療機関の被災が激しかったため、その搬送を広域に行わなければならなかったが、医療機関がヘリコプタ−による搬送に不慣れであったこと、通信手段の混乱により患者の受入れ可能な後方病院に関する情報が得られなかったことから重篤な救急患者を円滑に搬送できなかったことが問題として残された。

 (1) 救護班の派遣体制の整備

 (災害発生直後における医療の確保)
・ 今回、災害発生から30分後には、多数の傷病者が医療機関に殺到しはじめたが、医療機関自体が被災した上に医療従事者が出勤できず、人手不足に悩まされるなど十分には医療の提供ができなかった。この結果、消防署にも多数の負傷者が集まり、消防署が医療活動の第一線場所となった事例もみられた。
 救護班等外部からの救援が到着するには早くても数時間を要し、それまでの間は被災地内の医療機関や医療関係者で応急的な救命処置などを行わざるを得ないので、医療機関においては、平常時から自主的な防災訓練を行うとともに、消防署の近くの診療所や医療関係者は、地域の防災訓練に積極的に参加し消防署との連携を図るなどして、災害発生直後に被災地内で医療活動が迅速に開始できるよう努めることが必要である。

 (救護班の編成)
   災害により被災地の医療機能がマヒした場合、救護班による医療活動を行うこととなるが、災害発生直後に、できる限り早急に救護班の活動が開始できるよう、応急救助体制を確立しておくことが必要である。
 このため、平常時から公立病院、あるいは地域医師会・医療関係団体の協力を得て、救護班を編成しておくことが必要である。
 また、地域の実情に応じて、独自の広域的なブロックを想定し、他の地方公共団体と救護班の派遣に関する災害援助協定を締結しておくことが必要である。

 (救護班の迅速な派遣)
 大規模災害の発生時には、被災地方公共団体はあらかじめ編成した救護班を被災地に迅速に派遣し、適時適切な場所において医療活動を行うことが必要で ある。この場合、被災地の被害状況の把握に努めることが必要である。
 一方、被災地方公共団体と災害援助協定を結んでいる地方公共団体はこれに基づいて、また、災害援助協定を結んでいない地方公共団体も状況に応じて自らの判断に基づき、被災地方公共団体の要請を待たずに救護班を派遣することが 必要である。この場合、派遣する救護班は、初期の医療活動が自律的に行えるよう、最低限度の医薬品や医療器材、生活必需品を自らが持参していくことが必要である。

 (被災地方公共団体の管理下における救護班活動)
 被災地外の地方公共団体から派遣される救護班はもとより、自らの判断に基づいて単独で被災地に入り、医療活動を行おうとする医療スタッフについても、被災地方公共団体の管理下において救護班として活動することが効果的である。
 このため、これらの医療スタッフについては、被災地内又は被災地に最も近い地域の保健医療に関する行政機関である保健所を集合場所とすることとし、この場合には応急救助の医療の実施に関する知事の権限(従事命令や応援要請等)の保健所長への委任規定を整備しておくことも必要である。

 (日本赤十字社による救護班の派遣)
 日本赤十字社は、非常災害時の医療活動を本来の使命としており、これまでにもその活動は高く評価されている。今回も災害発生直後から救護班を被災地に派遣し、また、救護所を設置して各避難所を巡回し被災者の医療活動を行った。今後とも、あらかじめ各都道府県と締結した委託契約に基づき、また、状況に応じて自らの判断に基づき、被災地に迅速に救護班を派遣するなど、なお一層の医療体制の整備を図ることが必要である。

 (2) 国と地方公共団体との協力による救護班の派遣・受入れ調整

 (救護班の派遣調整)
 被災地方公共団体は、救護班の派遣調整を円滑に実施するため、被害の規模、状況等を勘案し、災害発生直後に派遣された救護班では応急救助の目的を達し得ないと判断した時は、すみやかに他の地方公共団体に救護班の派遣要請を行うことが必要である。しかし、被害の規模が甚大で、被災地方公共団体の行政機能に支障が生じ、自ら救護班の派遣調整を行うことができない場合は、国が被災地方公共団体と協力しながらこれを行うことが必要である。

 (救護班の受入れ調整)
 被災地方公共団体は、被災地外の地方公共団体から派遣された救護班を、被災地内の医療ニーズに応じて適正に配置するための受入れ調整を行うことが必要である。しかし、被害の規模が甚大で、被災地方公共団体の行政機能に支障が 生じ、自ら救護班の受入れ調整ができないと認められる場合は、国は現地対策本部を設置し、被災地方公共団体と協力しながらこれを行うことが必要である。
 この場合、現場に最も近く地域事情に詳しい保健所との協力の下に実施することが効果的である。

 なお、救護班により提供される医療は、あくまでも災害によって失われた医療機能を応急的に代替するものであり、被災地の医療機能が回復し次第、円滑に現地の医療機関にその機能を移行させることが必要である。

 (3) 救護班活動の後方支援

 (重篤な救急患者の広域搬送体制・後方受入れ体制の整備)
 応急的な医療は被災地において実施することが基本であるが、挫滅症候群、広範囲熱傷等の重篤な救急患者については、被災を免れた医療機関若しくは被災地外の後方病院へ緊急に搬送して治療することが必要である。また、被災地外の医療機関へのヘリコプタ−による搬送といった広域的な対応も必要となることから、各地方公共団体は、平常時から消防機関、自衛隊、海上保安庁と協力しながら、災害時における重篤な救急患者の広域搬送体制の整備を図っておくことが必要である。
 さらに、多数の患者を受け入れるためのスペ−スや広域搬送のためのヘリポ−トを備えた後方受入れ病院の整備に努めることも必要である。

 (医薬品・医療機材の確保)
 救護班が使用する医薬品や医療機材については、救護班自らが持参することを原則とすべきであるが、それでも不足する場合には、被災地方公共団体が購入するもの、救援用に無償供与されたものを活用することとなるが、その際、搬送手段とともに、管理や仕分けを行う薬剤師等の専門マンパワーを確保することが必要である。
 また、医療機関や薬局に対する医薬品や医療機材の供給については、機動力 及び品ぞろえの観点から、医薬品卸売業者が対応することが適当であるが、災害時の供給が円滑に行われるよう、平常時から、都道府県を中心とした関係機関のネットワークを整備しておくことが必要である。

目次へ戻る

〔3〕食料・水の供給

 今回の災害において、発生からの数日間は、食料・水の不足が極めて深刻であった。地方公共団体による備蓄が十分ではなかったこと、行政機能のマヒに 加え、救援物資が送られてくるにしても交通網の途絶、仕分けする要員の不足、指定されている場所以外の避難場所が多数発生したこと等から、食料・水が被災者の手元に届くまでには相当の時間を要した。
 また、避難所の設置が長期化することに伴い、初期の緊急一時的なメニューから、栄養バランスや献立の変化、温かい食事等への配慮が求められた。
 さらに、今回の災害では、水道施設が大きな被害を受け、当初の断水戸数は約127万戸に及んだ。水は災害発生直後における飲料水、医療用水、消火用水として極めて重要であり、全国の水道事業者(市町村)、関係団体、自衛隊、海上保安庁等による応援が行われ、給水車やポリタンクによる応急の供給が行われた。また、時間の経過に伴い、被災者から入浴用、洗濯用、トイレ洗浄等の生活用水の供給が求められ、避難所に対する生活用水の供給が行われた。

 (1) 食料・水の確保

 (住民による食料・水の備蓄)
 今回の災害の経験からみて、大規模な災害時においては、食料・水の供給は即座に行い得ないことも予想される。このため住民一人一人は、被災地方公共団体による食料・水の供給が行われるまでの間、自らが備蓄した食料・水により対応できるよう、平常時から3日分程度の最低限の食料・水の備蓄を行うことが望まれ、地方公共団体は住民に対しこの旨の周知に努めることが必要である。

 (多様な保存食の研究開発)
 行政においても、一定の保存食料の備蓄を行うことは、初期の食料の供給を行うために重要であるが、乾パンのみに限定することなく、食生活の向上、個人の嗜好の多様化、高齢者や病弱者に配慮した多様な保存食についても検討されるべきであり、今後、関係機関と連携して研究開発を推進することが必要である。
 また、備蓄場所についても、関係者と協議し、学校等の避難所として指定された場所や避難所までの輸送の距離が長くならないような場所を確保するよう努めることが必要である。
 (事業者との協定の締結)
 今回の災害では、例えば神戸市の場合、生活協同組合コープこうべと締結していた「緊急時における生活必需物資確保のための協定」に基づき、効果的な物資供給が行われたが、このような取組みは今後の大きな教訓である。
 このため、消費生活協同組合、スーパーマーケット、コンビニエンスストア等食品関係業者との物資供給協定の締結を進め、災害時の円滑な食料の供給体制を確立することが必要である。この場合、災害規模を勘案し、市町村の区域内に限らず、広域にわたる契約についても検討しておくことが必要である。

 (地方公共団体間の協定の締結)
 地方公共団体は、広域的なブロック単位で他の地方公共団体と、食料や応急給水に関する災害援助協定を締結することにより、災害時における食料・水の供給体制を確保しておくことが必要である。この際の輸送手段については、トラック等の陸路による手段では円滑に輸送できないことも考えられるため、場合によっては、船舶やヘリコプターによる輸送も想定しておくことも必要である。

 (自主的な判断による支援)
 地方公共団体間の災害援助協定に基づき支援を行おうとする地方公共団体は、被災地方公共団体からの要請を待つのではなく、むしろ大規模災害の発生直後においては情報は発信されないという今回の経験に照らし、災害発生の情報を的確に把握し、自らの判断で物資の輸送をすみやかに行うことも必要である。

 (2) 食料の質の確保

 (多様な供給方法の確保)
 被災地方公共団体は、一度に大量の食料を各避難所へ供給する必要があるため、初期には大手弁当製造業者との契約によらざるをえない面がある。しかし、その後の復旧に伴って、地元食品製造業者への契約の移行、自衛隊やボランティア団体による炊出し、集団給食施設の活用等の多様な供給方法によりメニューの多様化や適温食の提供等、食料の質の確保を進めていくことが必要である。

 (被災者自身による主体的な炊事支援)
 被災者自らが避難所等において、栄養士による巡回栄養指導等の援助を得て、栄養バランスを考慮しながら主体的に炊事を行い、温かい食事を確保することが望ましい。このため、被災地方公共団体は、避難所において炊事が可能となるように、仮設炊事場の設置、食材や燃料の提供に努めることが必要である。

 (3)応急給水

 (広域的な支援体制の整備)
 被災水道事業者は、水道施設の被害が甚大であり、応急給水について大規模な支援が必要であると判断した場合は、災害援助協定等に基づき、他の水道事業者等に広域的な支援を要請することが必要である。この場合、都道府県や国は、当該都道府県内のみならず、必要に応じ、全国の水道事業者や関係団体に対して、広域的な応援を要請することが必要である。

目次へ戻る

〔4〕生活必需品の提供

 今回の災害では、被災者の数が膨大であったこと、また、厳冬期でもあったことから、食料・水の確保に加えて、毛布、衣類等の生活必需品の確保が課題となった。当初、これに対応するため、被災地方公共団体の備蓄物資(毛布)、日本赤十字社の備蓄物資(毛布、日用品セット等)、全国から送られた救援物資の提供等が行われた。

 (地方公共団体の提供体制の整備)
 被災地方公共団体は、被災者が日常生活において欠くことができない被服、寝具その他生活必需品を喪失した場合に、生活必需品を提供することとなっており、災害発生に伴い、直ちにこれらを提供できる体制を整備しておくことが必要である。
 特に、厳冬期にあっては、災害発生当日中に毛布等を被災者に提供することが必要である。
 このため、あらかじめ必要物資の備蓄、他の地方公共団体との物資供給に関する災害援助協定の締結、物品提供業者との災害時における物資供給協定の締結等を行っておくことが必要である。
 この場合、救援物資が大量に搬入されることも考えられるので、それとの調整を行う体制をあらかじめ整備しておくことも必要である。

 (日本赤十字社の活動)
 日本赤十字社は、地方公共団体が生活物資を提供するまでの間の暫定措置として、あらかじめ備蓄しておいた救援物資を配分することとしているが、特に、毛布、日用品セット(タオル、コップ、はみがき等)、お見舞品セット(食料、食器等)は災害発生後、直ちに配分することが必要である。

 (災害救助基金の活用による備蓄)
 地方公共団体は、災害時の応急救助費用に充てるため、災害救助法第37条に基づいて、災害救助基金を積み立てることが義務づけられているが、これを活用し、あらかじめ応急的に必要と考えられる程度の食料や毛布等の生活物資を備蓄することが必要である。

目次へ戻る

〔5〕遺体の処理・埋葬

 今回の災害では、棺の確保、遺族に引き渡すまでの遺体の安置場所の確保、遺体保存のためのドライアイスの確保等が課題となった。また、埋葬については、被災地の火葬場が被害を受け、火葬が困難となったことから、被災県内の各市町及び県外の火葬場を確保するとともに、自衛隊による遺体搬送を行った。応急救助としての埋葬は、その遺族が埋葬を行うことが困難な場合に、地方公共団体が応急的な埋葬を行うものであるが、災害時にあっても遺族の心情を 察し、できる限り丁寧な埋葬が行われるよう努めることが必要である。

 (広域的な実施体制の整備)
 地方公共団体は、地元の火葬場が被災することも想定し、広域的な遺体の搬送及び火葬ができるよう、あらかじめ遺体搬送のための車両やドライアイス、棺、骨壺の確保、ヘリコプターを活用した広域的搬送方法、他の地方公共団体との 協力体制等について整備しておくことが必要である。
 なお、広域的な火葬を支援するため、死亡者数、火葬場の被災状況、火葬場の利用状況等の最新の情報が得られるよう、火葬データベースを整備することも必要である。

 (死体検案体制の強化)
 死体検案については、警察との連携を密にし、検案を担当する医師を遺体安置所に集中的に配置するなどにより効率的な実施を図ることが必要である。

 (相談窓口の設置)
 被災地方公共団体は、すみやかな火葬を望む遺族のために、必要に応じ、火葬相談窓口を設置し、火葬場、遺体の搬送等の情報を的確に提供することが必要である。

目次へ戻る

〔6〕 応急仮設住宅の設置

 今回、大都市直下の地震であったため、家屋の倒壊や焼失により、住家の被害は全壊戸数だけでも約20万世帯という膨大な数にのぼり、兵庫県及び大阪府で建設した応急仮設住宅は4万9,681戸という前例のない戸数となった。
 応急仮設住宅の建設・運営に当たって課題となったことは、被災地の近くに 建設用地を確保することが困難であったこと、大量に発注したために住宅の資材の確保が困難であったこと、早期かつ大量に建設する必要があったため、当初 同一仕様にせざるを得なかったことから、多人数世帯には狭かったこと、高齢者と障害者を優先入居としたため、結果的には高齢者等が集中する応急仮設住宅が生じたこと、応急仮設住宅での生活の長期化に伴い、コミュニティーづくり対策、一般の保健・医療・福祉対策が必要となったことなどであった。
 これらの課題に対して、建設用地としての国公有地や民有地の活用、建設に当たっての外国製やプレハブ建築業者以外の一般住宅メーカーの製品の活用、公営・公団住宅の一時使用や民間アパートの借上げ、高齢者等向け地域型仮設住宅の建設、長期化した避難生活を支援するための保健・医療・福祉サービスの提供、コミュニティーづくり対策等の取組みが行われてきた。

 (1) 建設用地の選定・確保

 今回の災害における応急仮設住宅の建設に際しての最大の課題は、建設用地の確保であった。被災地方公共団体においては、できる限り被災地に近い場所を選定することとしたが、公営住宅等の恒久住宅の建設計画との関係もあり、市街地においてはもちろん、近郊地域においても用地の確保に困難を極めた。このため、大規模災害を想定した応急仮設住宅の設置については、あらかじめ建設可能な土地を把握しておくことが必要である。

 (建設可能な国公有地の確保)
 応急仮設住宅を早期かつ大量に建設するためには、その建設用地は所有者との調整の必要がない当該地方公共団体内の公有地が最も適切である。これに加えて、国有地についても、今回のように災害時における無償貸付の制度を活用することも考えられる。

 (民有地の確保)
 今回、被災地方公共団体は民有地についても、企業や個人の協力により無償又は固定資産税相当額で借り上げたが、今後、大規模災害においては大量の応急仮設住宅を建設する必要が生じることを想定し、あらかじめ民有地も含めて建設用地を確保しておくことが必要である。

 (立地条件に対する配慮)
 建設用地としては、可能な限り住宅地としての立地条件に適した場所を選定することとし、この場合、上下水道、ガス、電気等の生活関連設備の整備状況に加え、医療機関、学校、商店、交通、コミュニティー、騒音、防火といった面も総合的に考慮することが必要である。

 (2) 整備の方法・水準

 兵庫県における応急仮設住宅の建設状況を大まかな時期によって分けると、平成7年3月末までで3万戸、4月末までで4万戸となり、最終的には、避難所を7月末を目途に解消するための8,300戸を加え4万8,300戸であった。また、大阪府においては、1,381戸が建設された。
 今回、応急仮設住宅は、迅速かつ大量に供給する必要があったことや被災者の構成世帯の把握ができなかったことから、2Kタイプの同一仕様で建設せざるを得ず、多人数世帯には狭かった。また、高齢者等への配慮は浴室や便所への手すりの設置と洋式便器であったが、その後スロープの設置による段差解消等の措置が講じられることとなった。

 (必要戸数の供給)
 住宅を失った被災者の避難所の生活を解消するためには、一日も早い応急仮設住宅の建設が要請される。プレハブ建築業界の推計によると、ストックを含めた供給可能戸数は通常1カ月約1万戸であるといわれており、この業界との事前協定により、供給可能戸数を把握しておくとともに、災害が発生した際には、すみやかに必要戸数を確保し、その建設及び提供を行うことが必要である。

 (公的住宅の一時使用、民間アパートの借上げ)
 今回、住家を失った被災者に対し、公営・公団住宅の一時使用が認められ、全国で最大時約1万2,000世帯が入居した。また、兵庫県においては、民間アパートを応急仮設住宅として借り上げたが、今後も必要に応じて、これらの制度の活用が考えられる。

 (ニーズに応じた多様なタイプの応急仮設住宅の提供)
 今回、応急仮設住宅には、国内のプレハブ建築業界だけでは十分な供給が見込めなかったことから、外国製やプレハブ建築業者以外の一般住宅メーカーの製品も取り入れた。また、当初は2Kタイプであったが、8,300戸の追加建設の際には、6畳の居室、台所、風呂、トイレが付いた1Kタイプや、風呂、台所、トイレ等が共同形式の応急仮設住宅も建設された。これらの入居者の利用の実態を踏まえて、今後の災害発生時においては、今回の貴重な経験を生かし、単身や多人数世帯等様々な世帯の入居に対応し、多様なタイプの応急仮設住宅を供給することが必要である。

 (2階建の応急仮設住宅の取扱い)
 地域型仮設住宅以外の一般の2階建応急仮設住宅については、平屋建と比べて基礎工事を堅固とする必要があるため、建設のための時間が相当必要なこと、同様に建設費も割高であること、また、生活音が1階の入居者に響くことといった問題が考えられるので、今回の利用者の実態を調査し、慎重に対応することが必要である。

 (標準仕様の改善)
 多様な世帯の入居に対応するため、世帯員数に応じた面積や間取りはどの程度のものが適当かなど、あらかじめ標準的な仕様を策定しておくことが必要である。また、今回の応急仮設住宅では、当初からの湯沸かし器、風呂、断熱材に加え、エアコンやひさしの取り付け、敷地通路の簡易舗装等が順次整備されたが、仕様の策定に当たってはこういった設備や敷地の外溝整備の水準はどうあるべきかについても検討を行うことが必要である。
 この場合、高齢化が急速に進展する中で、高齢者等に配慮した仕様はだれにとっても利用しやすいと考えられるので、通常の応急仮設住宅についても、標準的な仕様設計の段階からバリアフリー仕様とすることが必要である。

 (ふれあいセンターの設置等コミュニティーづくりへの配慮)
 応急仮設住宅での生活が長期化することも念頭に置き、その建設に当たっては広場や多目的な集会所を設けるなど、入居者が安心して生活できるようコミュニティーづくりにも配慮する必要がある。
 今回、千戸単位の大規模な応急仮設住宅が建設されたが、入居者のための集会所としての機能を持つ「ふれあいセンター」が50戸の応急仮設住宅ごとに設置され、コミュニティーづくりのための拠点として種々の地域活動が行われてきた。この試みは、極めて有効であったと考えられることから、今後、一定戸数以上の応急仮設住宅には必ず設けるなどのルールづくりを行うことが必要である。
 さらに、応急仮設住宅の入居者が地域内で孤立しないように、周辺地域とのコミュニケーションにも配慮することが必要である。

 (住宅の応急修理制度の活用)
 災害によって住家が半壊の被害を受け、そのままでは住むことはできないが、その破損箇所に手を加えれば何とか日常生活を営むことができる場合がある。このような半壊世帯に対する支援として、当面の日常生活に必要な居室、台所、トイレを応急的に修理する応急修理の制度があるので、今後とも、この制度の活用を図ることとし、事前に施工業者と協定しておくことが必要である。

 (3) 入居決定のあり方

 今回の災害における応急仮設住宅の入居決定方法は、神戸市、西宮市、宝塚市といった大都市については、一定戸数が完成するごとに、高齢者等を優先し、希望する場所の応急仮設住宅を申し込む方式による公募抽選方式をとった。これは憔悴の激しい高齢者等を1日も早く避難所から応急仮設住宅へ入居させることが、緊急の課題であったためである。
 しかし、この結果として、高齢者等が集中する応急仮設住宅が発生した。また、通勤、通学や通院の関係から、従来の居住地の近隣の応急仮設住宅に入居 希望者が集中する一方、郊外の応急仮設住宅は募集戸数割れが生じ、応急仮設住宅への入居が円滑に進まないという状況が発生した。
(高齢者等への配慮)                           
 応急仮設住宅での生活が長期化することに伴い、コミュニティー意識が芽生える一方、一人暮らし老人を中心に孤独感に耐えられない入居者も多数みられたことから、入居に当たっては、高齢者等が集中しないよう配慮することが必要である。
 このため、被災者へのすみやかな供給と併せ、例えば、被災前のコミュニティー単位で入居する方法や、応急仮設住宅のうち一定割合を高齢者等向けとして事前に設定しておくことを検討することが必要である。

 (恒久住宅の建設)
 応急仮設住宅はあくまでも一時的な仮設の住宅であり、すみやかに恒久住宅の復旧・復興を図ることが望まれる。このため、被災地方公共団体においては、持家再建に対する支援策、高齢者等の利用に配慮した公営住宅等の建設計画や入居条件、さらには、高齢者等への対応方策をできる限り早期に提示するとともに、その推進を図ることにより被災者に安心感をもってもらうことが必要である。

 (4) 設置後の運営

 応急仮設住宅は、応急救助の実施主体である被災都道府県が設置したものであるが、設置後の管理運営は市町村に委託されている。市町村は仮設住宅入居者に対し、応急仮設住宅以外の市町村住民と同様に行政サービスを行う必要がある。

 (入居者への支援)
 現在、被災地方公共団体においては、応急仮設住宅の入居者の生活を支援するため、健康相談、仮設診療所や仮設保育所の設置、「こころのケアセンター」の設置、ホームヘルパー派遣等の保健・医療・福祉サービスの提供、ボランティア活動拠点の設置、さらに、住宅・就職を含む各種相談体制も順次整備されており、これらの実践の積み重ねの成果が今後の災害対策に大いに役立てられる ことが必要である。

 (日常生活の利便性の向上)
 応急仮設住宅での生活を支援するため、ミニ店舗の設置、路線バスの増発や 新規開設等の日常生活の利便性の向上を図ることが必要である。

 (5) その他の課題

 今回の場合、かつてない大量の応急仮設住宅を設置したことから、応急仮設住宅の設置期間と定められている2年以内に、すべての入居者が恒久住宅へ移転 することは困難と予想される。また、入居者に対する行政サービスや設置目的を完了した応急仮設住宅の撤去等に係る費用をどのように負担すべきかといった 課題も生じてきている。
 このため、応急仮設住宅の設置期間の延長のあり方、応急仮設住宅の入居者に対する行政サービスやその撤去・復元に関する費用負担のあり方について何らかのルールづくりを検討することが必要である。


目次へ戻る

4.要援護者への支援

 ・ 今回、被災市町を中心に民生委員・児童委員、ホームヘルパーの協力を得て、要援護者の安否の確認や生活状況を把握するためのローラー作戦や移送が行われた。また、平成7年3月末までに2,290名の高齢者、214名の障害者、1,557名の児童を社会福祉施設に緊急一時入所・通所させたが、定員の1割を超える入所を認めるとともに、入所の手続も場合によっては事後でよいとするなど弾力的な対応を行った。

 ・ また、避難所や応急仮設住宅の要援護者に対しては、保健婦による巡回健康相談や訪問指導、社会福祉施設職員で構成する介護支援チームの派遣、社会福祉協議会による入浴介助サービスの巡回、児童相談所職員による「被災児童こころの相談事業」が行われるとともに、障害者に対する情報提供として行政が障害者団体、報道機関等と協力して文字放送専用テレビを配置するなどの取組みが行われた。

 ・ さらに、避難所等の聴覚障害者に対しては、他の地方公共団体などから延べ430名(平成7年3月末現在)の手話通訳者が派遣されたが、こういった福祉の専門ボランティアの協力も数多くみられた。

 ・ しかし、今回の災害においては、在宅及び避難所における要援護者の状況把握が遅れたこと、要援護者に対して必要な情報が十分には伝わらなかったこと、高齢者や障害者に配慮した避難所や応急仮設住宅が少なかったこと、避難所等における保健・医療・福祉サービスの提供が遅れたこと、行政とボランティアとの連携が迅速に行われなかったことが問題となった。

 (1) 在宅要援護者の安否確認

 被災したねたきり老人や歩行困難な障害者等は自力では避難できず、自宅で そのままの状態が続くと、健康を著しく損なったり、生命に危険が及ぶことも 予想される。そこで災害時にあってはこのような要援護者の安否確認を迅速に行うことが重要であり、平常時から要援護者の把握について民生委員・児童委員等の福祉関係者との協力関係を確保しておくことが必要である。
 (平常時からの要援護者の把握)
 災害時に要援護者の所在及び安否を迅速に確認するためには、平常時から要援護者の所在を民生委員・児童委員を通じ福祉事務所が中心となって把握しておく必要があるが、今回の災害では、要援護者の名簿の整備・更新も不十分であったことから安否確認が遅れたという問題があった。今回の災害経験を踏まえ、平常時から要援護者についてのきめ細かな状況を把握しておくことが不可欠であり、身体障害者手帳交付台帳をはじめ、例えば、ホームヘルパー、ガイドヘルパー、手話通訳者の派遣、デイサービスといった介護サービスを受けている人々のリストを整理しておくことが必要である。

 (福祉事務所等による安否確認)
 災害発生直後、まず、要援護者を把握している福祉事務所が、民生委員・児童委員の協力を得ながら、迅速にこれらの人々の安否確認を行うことが必要で ある。また、安否確認を円滑に実施するため、あらかじめ災害時の要員体制を 整備しておくとともに、民生委員・児童委員に対して、安否確認方法を周知しておくことが必要である。
 このような方法によっても確認できない要援護者については、福祉団体やボランティア団体の協力を得て安否確認を行うことが必要な場合もある。なお、この場合、要援護者のプライバシーの保護に十分留意しつつ、緊急やむを得ない場合には、状況に応じ名簿等の情報を一部開示するなどの柔軟な対応を考慮することが必要である。

 (地域における防災対策の充実)
 地方公共団体は、地域では多くの要援護者が生活していることを念頭に置き、あらかじめ要援護者に対し、防災に関する広報の徹底を図ることが必要である。 特に、ホームヘルパー、ガイドヘルパー等の介護サービスを受けている人々に対しては、きめ細かに対応することが必要である。また、障害者に対しては、 点字・録音によるものや、イラストを採り入れたものなど分かりやすい広報を 行うことが必要である。

 (地域コミュニティーの互助意識の醸成)
 ・ 今回、災害発生直後、8割以上の地域住民は近隣同士の助け合いにより避難したという報告もある。また、普段から「私たち夫婦は目が不自由なので、何かあったときには助けてほしい」と依頼しておいたことが幸いして、隣人がすぐさま救助に駆けつけてくれたという障害者の体験談が示すとおり、いざという時にまず頼りになるのは近隣住民であり地域コミュニティーである。
 特に、災害発生直後に要援護者を避難させる場合には、同居の家族のほか近隣住民の積極的な協力が必要であり、要援護者を含めた自治会等の地域コミュニ ティーにおいて、平常時から互助意識を育み、災害時の要援護者の避難方法に ついて話し合っておくことが望まれる。

 ・ 他方、要援護者も、平常時から非常時の持出品の確認、避難所とそこに行く経路の確認を行うことはもとより、地域コミュニティーとのつながりができるよう自ら努力することが望まれる。また、地方公共団体はこのような点について、あらかじめ広報活動を通じて周知しておくことが必要である。

 ・ さらに、地方公共団体は、地域住民に対して、要援護者の救助に関する知識をあらかじめ周知しておくことが必要であり、実際に要援護者の救出訓練を行ったり、地域住民が要援護者の体験をするなどの防災訓練を実施することも効果的である。

 (2) 要援護者に対する情報提供

 ・ 今回、長期間にわたり交通や通信網が寸断したことに加え、特に、障害者は、コミュニケーション面でハンディキャップを有する面があることから、被災した状況や避難所がどこにあるのか、どこに行けばどのようなサービスが受けられるのかといった必要な情報を入手することが困難であった。

 ・ 障害者に対しては、他の地方公共団体等に手話通訳者の派遣要請を行い、生活必需物資、医療、交通網に関する情報提供や各種相談を行うとともに、行政の ほかに障害者団体も救援対策本部を設置し、あるいは障害者の親の会が避難所を巡回するなどによって、障害者に必要な情報を伝達するといった取組みが行われた。
 また、電話やファックスによる相談窓口を設け、福祉に関する相談や「こころの相談」を行ったが、全体としてみれば障害者に対しては必要な情報の提供が遅れた。

 (要援護者への情報提供)
 聴覚障害者に対しては、避難所等の掲示板やファックス、テレビの手話・文字放送、手話通訳が有効であり、視覚障害者に対しては点字・音声による情報が有効であることから、今後、こういった多様な手段を活用してきめ細かな情報を提供することが必要である。
 なお、今回の災害では特にインターネットを介したパソコン通信の有効性の一端が証されたところであり、現在、国が整備を進めている障害者情報ネットワークを一層充実することも必要である。

 (3) 避難所における要援護者対策

 避難所においては、平成7年2月末で約600人の障害者が避難していたといわれ、被災地方公共団体は、補装具の再交付、補装具及び日常生活用具の給付・貸出し、福祉施設の利用相談、ケースワーカー、保健婦、手話通訳者、ガイド ヘルパー、福祉タクシー等の派遣を行い、要援護者の避難所生活を支援した。

 (バリアフリー等構造面での配慮)
 今回、避難所においては、設備面で要援護者に配慮されていないなど施設の構造上の不備が指摘された。近年、地方公共団体における福祉のまちづくり条例等の制定により、公共建築物におけるバリアフリー化が進んできているが、バリアフリー化されていない施設を避難所とする場合には、要援護者が利用しやすい障害者用トイレ、スロープ等の段差解消設備を整備することが必要である。

 (相談窓口の設置)
 これまで在宅で種々の福祉機器を利用して生活していた障害者にとっては、避難所での生活は自分に必要な機器のない不便なものとなった。このようなことから、要援護者の避難所生活に必要な車椅子、障害者用携帯便器、おむつ等の 物資、ガイドヘルパー、手話通訳者の派遣、要援護者のニーズを把握するための相談窓口を早急に設置するとともに、迅速にこれらの物資の調達や人材の確保に努めることが必要である。
 また、必要な物資・人材の確保に当たっては、行政が積極的に関係業界、関係団体、関係施設への提供要請を行うなどして迅速な調達に努めることが必要である。

 (社会福祉施設の避難所としての利用)
 要援護者は、通常の避難所では生活スペースの確保等の面で困難な状況に置かれやすいことから、福祉サービスが受けられる社会福祉施設を要援護者のための避難所として確保することが必要である。このため、地域の社会福祉施設のうちから、要援護者が災害時に避難所として利用できるものをあらかじめ福祉避難所(仮称)として確保しておくことが必要である。(「社会福祉施設における要援護者対策」の項で詳述)

 (4) 応急仮設住宅における要援護者対策

 今回、応急仮設住宅を早期かつ大量に建設する必要があったことから、その仕様が標準的には浴室や便所の手すりの設置、洋式便器であったため、きめ細かな個別の対応が遅れ、要援護者にとって日常生活上の不便が生じることとなり、入口の段差解消等の改修が必要となった。

 (要援護者の住みやすい仕様の検討)
 応急仮設住宅の構造については、風呂の段差解消、入口のスロープ、トイレ・浴槽の手すりや滑り止めの設置、チャイム、ノブ、棚等の利用状況に合わせた 高さ設定等の面で、要援護者が安心して住むことができるようその仕様を改善することが必要である。

 (地域型仮設住宅の設置)
 今回、要援護者を対象に、必要に応じて従前の居住地に比較的近い地域で福祉面のケアを受けながら生活することができる応急仮設住宅(地域型仮設住宅)が1,885戸整備されたが、この取組みは今後も推進することが必要である。また、その仕様についてもさらに改善することが必要である。

 (5) 社会福祉施設における要援護者対策

 今回の災害では、社会福祉施設はその本来の機能から要援護者の避難場所となったことに加え、定員を超えて受け入れできる最大限の施設入所を行うなど 大きな役割を果たした。このため、今後、社会福祉施設を地域の要援護者の応急救助の拠点として重視していくことが必要である。
 また、今回のような早朝に発生した災害の場合と異なり、昼間に災害が発生した場合には、入所者はもとより、通所してサービスを受けている要援護者に対する支援方法も検討しておくことも必要である。

 (介護用品の備蓄)
 社会福祉施設は平常時から災害時に対応できるよう、少なくとも3日分程度の食料・水や毛布といった一般的な防災用品のほか、介護に必要な紙おむつ等を地域の要援護者分もある程度含めて備蓄しておくことが必要である。

 (職員体制の確保)
 社会福祉施設は、平常時から災害時における職員の役割分担を含む職員体制について決めておくことが必要である。今後とも、定期的に避難訓練を実施するなど防災意識の啓発・訓練の充実に努めることが必要である。

 (施設間の提携)
 社会福祉施設においては、災害時に物資や職員についての相互の応援・協力が可能となるよう、平常時から近隣あるいは広域の施設間での提携について取り決めておくことが必要である。

 (福祉避難所(仮称)の設置)
 ・ 多数の被災者が避難する避難所では、要援護者は生活スペースの確保や救援物資の受け取り等においても困難な状況におかれやすい。また、避難所に避難 した要援護者や家族の中には、他の避難者との共同生活に馴染むことができず、危険な自宅へ戻った事例や、他の避難者の中にあって孤立するといった事例が みられた。

 ・ 災害発生直後、要援護者が通常の避難所に緊急的に避難することはやむを得ないとしても、一時的であっても安心して生活でき、福祉サービスも受けられる施設にすみやかに避難することが必要である。また、社会福祉施設への緊急入所を円滑に進める上からも、要援護者はできる限り社会福祉施設に避難することが必要である。このため、地方公共団体は、地域の社会福祉施設のうちから「福祉避難所」(仮称)としてあらかじめ指定し、その旨を要援護者をはじめ地域住民に周知しておくことが必要である。

 ・ また、その前提として、地域防災計画においても対応可能な社会福祉施設を要援護者の避難拠点として位置づけ、平常時から利用可能なスペース、備蓄物資の把握等に努めておくことが必要である。この場合、地方公共団体においては 社会福祉施設を災害救助基金による備蓄物資の備蓄場所とするなどの対応を図ることも必要である。

・ なお、災害の規模によっては、あらかじめ指定された「福祉避難所」(仮称)のみでは量的に不足する場合も想定されることから、(1)福祉センター、(2)コミュニティーセンター、(3)公的宿泊施設等も同様に「福祉避難所」(仮称)として位置付け、これらの施設に対し、介護者を配置するとともに在宅福祉サービスを提供していくことも必要である。

 (要援護者の緊急入所)
 ・ 今回、避難所や在宅では生活できない要援護者については、避難所からの通報や家族からの相談を受け、被災地以外の社会福祉施設を中心に緊急一時入所の受入れを行った。この緊急入所に当たっては、各施設が全国からの社会福祉施設職員の応援を受けるとともに、兵庫県社会福祉協議会に「障害者支援センター」が設置されたほか、大阪府、京都府などにも施設間のコーディネートを行う窓口が設置され、迅速・円滑な対応が行われた。また、視覚障害者については国立神戸視力障害センターにその援護を要請するなどの措置も講じられた。

 ・ このようなことから、被災地に隣接する社会福祉施設は、施設の機能を維持しつつ要援護者を可能な限り受入れるよう努める必要がある。また、自らの施設で緊急受入れが困難な場合には、施設間で受入れを調整したり、職員を応援派遣するなどの連携を図ることが必要である。その際、広域的な調整を必要とする 場合には、国や地方公共団体が社会福祉協議会や関係団体の協力を得て、受入れ可能施設の情報を把握・提供し、ホームヘルパーや寮母等の派遣調整を行うことも必要である。

 (6) 一般対策としての保健・医療・福祉サービスの充実

 避難所や応急仮設住宅に避難した要援護者、あるいは在宅の被災者に対して保健・医療・福祉サービスが継続して提供されることが必要である。このため、被災状況に応じて、福祉事務所、保健所、市町村保健センター、医療機関、市町村の福祉・衛生部局が連携し役割を分担して保健・医療・福祉サービスを提供できる体制を整備することが必要である。

 (迅速なニーズ把握)
 災害発生直後は、特に避難所において、保健・医療・福祉サービスを必要とする被災者が多く発生することから、避難所にはできる限り救護所を併設し、相談や応急処置を行うことが必要である。また、これらの人々に対して、遅くとも1週間後を目途に組織的・継続的に保健・医療・福祉サービスを提供できる ように、災害発生から2〜3日目から避難所を対象として、要援護者の把握調査を開始するなど、迅速なニーズの把握を行うことが必要である。

 (メンタルヘルス対策の実施)
 今回の災害においては、震災による精神的ショックや長期の避難生活に伴うストレス、さらには、将来の生活に対する不安による不眠や頭痛等の、いわゆる「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」が注目され、被災者のメンタルヘルスの重要性が改めて認識された。今回、保健所や精神保健福祉センター、児童相談所の職員が中心となり避難所等を巡回し、あるいは避難所に相談員を置くなど して、相談体制の確立が図られた。また、概ね保健所単位に「こころのケアセンター」が設置され、相談や訪問指導が行われている。
 災害で受けた心の傷跡は、まちが復興しても癒えるまでには相当長期間を要すると考えられるため、このような取組みを通じて、中長期的なメンタルヘルス対策が行われることが必要である。

 (平常時からの保健・医療・福祉サービスの充実)
 今回、長期化した避難所や応急仮設住宅の生活において、保健・医療・福祉 サービスの重要性が明らかになったことから、平常時から住民に身近な保健・医療・福祉サービスを十分整備しておくことが、災害対策を進める上からも基本であるといえる。このため、地方公共団体においては、老人保健福祉計画、障害者プラン、エンゼルプラン等に沿って策定された当該団体の計画に従い、ホームヘルパー、ショートステイ、特別養護老人ホーム、老人保健施設等の保健・医療・福祉サービスの充実を着実に図っていくことが必要である。

 (7) 市町村福祉部局における実施体制の確保

 今回の災害では、福祉事務所の職員が遺体の処理、食料や物資の供給、救援物資の仕分け、生活福祉資金の貸付業務の支援等に忙殺され、必要な時に必要な福祉サービスを十分提供できなかったという問題があった。

 (福祉部局職員の要員確保)
 市町村福祉部局の職員が、遺体の処理、避難所の設置管理、食料や物資の供給等の応急救助関係業務のほか、罹災証明書の発行等の業務に忙殺され、要援護者からの一般福祉サービスの要望に対応できないといった事態が生じないよう、今後、災害規模及び当該市町村の行政機能の状況に応じつつ、ホームヘルパー、ガイドヘルパー等を適切に派遣し、あるいは要援護者を社会福祉施設に緊急入所させるなどの適切な福祉措置がとれるよう、他の部局との連携体制のもとに、一定の福祉部局職員を確保しておくことが必要である。
 また、災害時の福祉サービスの相互援助について広域的なブロック単位で他の地方公共団体と協定を締結するなど、平常時から災害時における業務の相互協力関係を構築しておくことが必要である。

 (担当業務ガイドラインの作成)
 福祉部局の職員は応急救助に併せて、本来業務である被災後の要援護者の援護を迅速に行える体制を確保しておくことが必要である。このため、福祉部局職員が災害時の状況に応じ、応急救助業務と一般福祉サービス業務にどのように携わっていくかについて参考となるガイドラインを作成することが必要である。

 (一般福祉サービス業務への弾力的移行)
 福祉部局職員を食料や物資の供給業務、遺体の処理業務等の応急救助業務に従事させる必要がある場合でも、避難所や応急仮設住宅の設置により、特に、福祉サービスの需要が増大することが考えられることから、他部局からの応援も含め、災害発生からの時間の経過に伴い、福祉部局職員の役割を応急救助関係業務から一般福祉サービス業務にすみやかに移行させていくことが必要である。


目次へ戻る

5.ボランティア活動と行政との連携

・ 今回の災害で、国民の間に大きな共感と感動をもたらしたのが、20代の若者を始め、男女、世代を問わず活発に展開されたボランティア活動である。

・ 災害発生直後から全国各地のボランティアが集まり、平成7年1月17日から1か月間に1日平均約2万人が活躍した。さらに、平成8年2月20日までの 約1年間でみると、延べ人数は約140万人にも達しており、「ボランティア元年」と呼ぶにふさわしいめざましい活動が展開された。
 避難所で活動するボランティアを対象にした兵庫県のアンケート調査によると、ボランティアの半数以上は、大学生、短大生、専門学校生、高校生等の若者であり、全体の3分の2は兵庫県外からの人々であった。

・ ボランティアの受入れや調整等を行った団体は、社会福祉協議会、日本YMCA同盟、日本赤十字社等の既存団体から、企業・労働組合、消費生活協同組合、宗教団体、さらには、西宮ボランティアネットワーク(NVN)のような被災地の各地に自然発生的に誕生したボランティアグループがあり、これらの団体が 長期間にわたって活発な活動を展開した。

・ ボランティア活動は、個人の自由意思に基づく自主的・自発的な活動であり、その活動内容や活動形態は様々である。応急救助との関係でボランティアの活動内容をみれば、主として災害の拡大防止、人命救助等に力点を置く「防災ボランティア」と、被災者の生活支援や精神的支援等に力点を置く「福祉ボランティア」と呼ばれるものに区分できる。
 今回のボランティアの具体的な活動内容をみると、救援物資の仕分け・搬入・搬出、避難所の運営や食事の炊出し、水くみ、清掃、引っ越し援助、被災者の安否確認等の一般的な活動から、介護、看護、医療等の専門的な活動まで多様で あった。

・ 今回の災害で示されたように、行政の機能がマヒ状態になった被災時において、ボランティア活動は迅速かつ柔軟できめ細かな対応が可能であり、精神的な面でも被災者に勇気と希望を与え、心の拠り所となる。また、行政の機能が回復しつつある段階においても、行政ではカバーしきれない多くの分野や、個々人の個別ニーズへの対応等において大きな役割を果たす。

・ しかし一方、膨大な数、多様な活動範囲に及ぶボランティア活動の相互調整、ボランティア活動の支援・持続方法、災害救助法による応急救助の実施主体である行政との連携方法等の面で、今後検討すべき課題も数多く提起された。

 (1) ボランティア活動の基盤整備

 (ボランティア活動支援のためのガイドラインの作成)
 行政としては、ボランティア活動の自主性を損なわないように配慮しつつ、ボランティア団体と連携しながら、その活動を支援していくことが必要である。このため、災害時において、行政とボランティアとの協力関係が円滑に機能し、ボランティア活動が活発に展開されるように、災害時におけるボランティア活動支援のためのガイドラインを作成することが必要である。

 (地方公共団体による基盤整備)
 災害時において、ボランティア活動がその機能を効果的に発揮していくためには、何よりも平常時からの取組みが不可欠であることから、地方公共団体はボランティア活動が積極的に行われるよう、教育・啓発の推進、活動の拠点づくり、活動参加プログラムの開発普及、ネットワーク体制の整備・訓練等の活動の基盤づくりに取り組むことが必要である。

 (2) ボランティア活動の受入れ・連携

 (行政窓口の明確化)
 被災地方公共団体は、災害時において積極的にボランティアを受入れるとともに、行政とボランティア及びボランティア団体は、相互にそれぞれの立場を理解しつつ、連携・協力して被災者の支援に当たることが必要である。
 このため、地方公共団体は、事前にボランティアやボランティア団体に対する行政窓口とボランティア活動コーディネート組織を対外的に明確にし、災害時には両者が連携して、ボランティアの受入れ・相談、ボランティア団体との情報交換、協議等を行うことが必要である。

 (情報の共有)
 災害時のボランティア活動を支援するためには、まず、ボランティアニーズを把握しておくことが重要である。災害時におけるボランティアに対するニーズは、時間の経過とともに刻々と変化するため、これに対応した効果的なボランティア活動が行われるよう、行政、社会福祉協議会、ボランティア団体等は随時ボランティアニーズを把握するとともに、それらの情報を相互に共有し、ボランティア活動者に対して的確な情報提供を行うことが必要である。

 (広域的な連携・協力)
 今回、被災地方公共団体では、災害発生直後のボランティアに対するニーズの把握等にまで十分手がまわらなかったが、災害時のボランティアの活動範囲は広域にわたっている。このため、都道府県と市町村は一体となってボランティア活動を支援できるよう、例えば、被災市町村ボランティアセンターと周辺の市町村及び都道府県ボランティアセンター等との連携・協力等、都道府県・市町村 相互の広域的な連携・協力体制を整備することが必要である。
 また、被災都道府県・市町村においては、近隣都道府県・市町村や報道機関、ボランティアセンター等と連携し、随時、ボランティアに対するニーズを公表し、全国的にボランティアを募集することも効果的・効率的である。

 (3) ボランティア活動のコーディネート機能の強化

 ボランティアの支援を必要とする被災者側ニーズと活動を行いたいというボランティア側の意欲とを円滑に結びつける事務は極めて重要である。そこで、災害時の混乱の中で、多種多様なボランティア活動が迅速かつ効果的に行われるよう、需要と供給の連絡調整等を行うボランティア活動のコーディネート機能を強化することが必要である。

 (コーディネーターの養成・配置)
 今回の災害では、ボランティアニーズが、災害発生直後(避難所の立ち上げ等)、1週間後(避難所への救援物資の供給等)、1か月後(要援護者への生活支援等)というように、時間の経過とともに刻々と変化していったが、このような絶えず変化する災害時のボランティアニーズと、ボランティアを結びつけていくコーディネーターを配置することが必要である。災害時に的確なコーディネートを行うコーディネーターの存在は、平常時からの取組みが基本となることから、地方公共団体、社会福祉協議会、日本赤十字社等にあっては、平常時からボランティアコーディネーターの養成・配置に努めていくことが必要である。

 (コーディネート組織)
 大規模災害において、応急救助業務に追われている行政がボランティア活動の調整を行うことは困難であり、また非現実的である。むしろ、社会福祉協議会や各種のボランティア団体及びこれらの団体のボランティアコーディネーターが中心となって、ボランティアの受付け、コーディネート、組織化等の業務を行うことが適当であると考えられる。
 また、例えば、医師を中心とした専門家ボランティア団体であるAMDA(アジア医師連絡協議会)のように医療という専門分野におけるコーディネート機能を果たす団体も存在するので、こうした専門家ボランティア団体との連携も重要である。

 (4) 活動支援

 (ボランティア保険の紹介・普及)
 被災地方公共団体は、災害時においてボランティアが安心して活動できるよう、天災補償付きのボランティア保険の紹介・普及、ボランティア活動拠点の整備、活動資材の提供等に努めることが必要である。なお、ボランティア保険については、平常時のボランティア活動の場合にも不可欠であり、その普及・拡大に努めることが必要である。

 (各種基金等による助成)
 大規模災害にあっては、ボランティア活動は大規模化、長期化すると考えられることから、被災地方公共団体にあっては、ボランティア基金や災害復興基金等の活用によりボランティア活動費の助成に努めることが必要である。
 また、全国的なレベルにおいては、今回の全国社会福祉協議会による「阪神・淡路大震災におけるボランティア団体活動支援のための募金」のような取組みや、共同募金についての今後の検討を踏まえた共同募金の活用による災害時のボランティア活動に対する支援等について検討されることが望ましい。

 (非営利組織の法人化等制度面の整備)
 また、ボランティア活動を推進している団体の多くが非営利組織(NPO)であることから、これらの非営利組織が継続的に活動を展開できるように法人格の付与を容易にするなどの制度的な面の整備を進めることが必要である。

 (5) ボランティア団体等のネットワーク化

 ・ 災害時、長期にわたって継続的・効果的なボランティア活動を展開するためには、他のボランティア団体や行政等の取組みの動向等について情報を交換し、お互いの特徴を生かしつつ相乗効果が発揮されるよう、ボランティア団体相互のネットワーク化を進めることが不可欠である。
 また、今回の災害では、企業や労働組合によるボランティア活動も活発であったことから、ボランティア団体と企業、労働組合の民間団体とのネットワーク化という視点も重要である。

・ このため、ボランティア団体は、平常時から他のボランティア団体や民間団体との相互のネットワーク化を図るよう努めるとともに、地方公共団体や社会福祉協議会等はこうしたネットワークづくりの調整役を果たしていくことが期待される。


目次へ戻る

 6.救援物資・義援金の受入れと配分

 今回、被災地方公共団体等に対して、災害の発生直後より、全国各地の国民各層から膨大な量の救援物資や多額の義援金が続々と寄せられた。
 平成7年6月現在で、水6,450トン、米355トン、炊出し105万食、野菜・果物600トン、毛布66万枚、紙おむつ16,400箱等の救援物資が寄せられ、被災者の生活支援に大いに利用された。
 また、義援金も個人、団体、企業等様々なレベルの人々から寄せられ、平成8年4月現在で、総額は約1,760億円とこれまでの災害ではみられない巨額に達し、死亡者の遺族や家屋の損害に対する見舞金等として配分されている。

・ こうした救援物資や義援金による支援は、国民各層の自発的な善意に基づくものであって、広い意味でのボランティア活動の一環でもあり、被災地の住民に対する生活支援等に大いに貢献している。

 ・ しかし、一方で、救援物資の重複、仕分けや配分に要する時間と労力というコストの負担、古着等利用に適さない救援物資の存在等の問題が指摘されている。また、義援金についても、配分基準や配分方法の決定の不透明性、配分に伴う事務手続きの煩雑さや配分に要する時間の問題、他の公的施策との関係における義援金の役割等の問題が指摘された。

 (1) 救援物資の受入れと配分

 (金銭による支援)
 災害発生直後には救援物資が待たれる場合もあるが、一般的に被災地への支援は、物資によるよりも金銭によることとした方が効果的な場合が多い。
 特に、地元業者が営業再開するなど一定の時間が経過した段階においては、救援物資の配分は非効率でもある。今後、こういったことを周知していくことが必要である。

 (被災地のニーズに即した物資の受入れ)
 被災地方公共団体は、災害時において、あらかじめ備蓄した物資、自らが発注した物資、他の地方公共団体等との災害援助協定による物資の供給によってもなお物資が不足すると見込まれる場合は、必要な物資の種類・量について、迅速かつ正確に把握することが必要である。
 また、こうした必要な救援物資が迅速かつ正確に被災地に集まるように、報道機関等を通じて明確に支援を要請することが必要である。
 さらに、今回の災害では、郵便局の小包手数料や義援金の振込手数料、JRの貨物手数料等の軽減等、救援物資・義援金の送付にあたって関係機関の協力が 得られたが、今後とも、報道機関、郵便局、公共交通機関、運送専門業者等の 関係機関において円滑な協力体制を確立することが必要である。

 (集積基地、配送ルートの確保)
 被災地方公共団体は、救援物資の受入れ・配分を迅速に行うため、被災状況等を踏まえ、すみやかに物資の集積基地(拠点場所や分散のための場所)、配送ルート等を確保することが必要である。

 (救援物資の仕分け・表示・配分)
 災害時、被災地方公共団体における救援物資の仕分け・配分に要する時間と労力は膨大なものであり、場合によっては本来の応急救助業務に支障を及ぼす おそれもあることから、今後、救援物資の送り手に対し、次のような点に配慮するよう周知することが必要である。

● 保存食、野菜等の生もの、日用品等の品目別に区分して発送することとし、できれば一つの箱に入れるものは単品とすることが望ましいこと。
● 梱包を開かなくても内容がわかるよう、識別票(赤、青、黄色ラベル表示)等で内容表示をすること。この識別票については、関係省庁と協議して、例えば赤は衣服といったように、一定の識別基準を作成するなどの工夫が切に望まれること。
● 例えば古着等のように、送り手にとって不必要なものは受け手にとっても不必要である場合が多く、基本的に未使用の品物が望ましいこと。
● 大量の救援物資の仕分け・配分については、ボランティアの活動が不可欠であること。また、物資の配送は運送専門業者の協力を得て行うことが有効であること。

 (時間の経過への配慮)
 救援物資については、その過不足を調整できるように、適切な情報のコントロールが必要である。すなわち、時間の経過とともに、救援物資に対するニーズも変化していくことから、被災地方公共団体は、発生から一定の時間を経過した後でも、必要な救援物資の種類、量等を明確にして、適宜、報道機関の協力も得て支援を呼びかけていくことが効果的である。

 (2) 義援金の受入れと配分

 (義援金の配分の基本原則)
 全国各地から寄せられる義援金は、被害状況を知った全国各地の国民、企業、各種団体等からの自発的な善意に基づくものであり、すみやかに被災者に利用されることが必要である。また、緊急性が重んじられる義援金の性格上、配分手続については極力簡略化するとともに、義援金の有効活用という観点からも行政による公費措置による対応が適当な事項については、義援金の配分は慎重に行うことが必要である。

 (「募集・配分委員会」の設置)
 被災地方公共団体は、義援金について日本赤十字社等の関係団体で構成する公平な第三者機関としての「募集・配分委員会」を組織し、義援金総額、被災状況等を考慮してすみやかに配分基準を定めるとともに、報道機関等の協力を得て、配分基準については対外的に明らかにし、配分に当たっても迅速かつ適切に配分するよう努めることが必要である。

 (配分状況の公表)
 義援金の「募集・配分委員会」は、配分が一応終了した段階で、第三者による監査の実施、配分状況の公表等を行うことにより、その公平性や透明性を確保することが必要である。

 (配分方法の検討)
 義援金を送る寄付者の善意が生かされるように、例えば、送り手から使用目的を明示して送られてくる場合にあっては、災害発生直後の被災地の混乱状況や業務量との関係、義援金全体の配分の公平性の問題にも留意することが必要であるが、極力それを尊重するような「ドナーズチョイス」の導入を検討することも考えられる。この場合、過去の経験に鑑み、義援金の受付窓口で配分の使途についていくつかの選択肢を用意することも一つの方法である。

 (募集、配分基準・方法、公表等に関するガイドラインの作成)
 災害時における多額の義援金については、既に、雲仙・普賢岳噴火、北海道南西沖地震、そして今回の阪神・淡路大震災といくつかの経験を重ねている。
 これらの災害時の経験を踏まえ、今後、大規模災害において、義援金の募集、配分等の業務が円滑に進められ、寄付者や被災者に不満が生じることがないように、義援金の募集、配分基準・方法、監査の実施及び公表のあり方について、日本赤十字社等の関係者を中心に標準的なガイドラインを作成し、国民各層のコンセンサスを得るようにしておくことが望ましい。


目次へ戻る

7.その他の生活支援対策

 (1) 被害認定

 今回の災害では、神戸市だけでも平成7年2月6日から平成8年1月19日までの間に、再調査分も含め、約54万件にのぼる大量の罹災証明書が発行された。
 しかし、被害認定が建物の外観調査によらざるを得なかったこと、その認定結果が各種給付金、貸付金等に影響することから、被害認定の結果に対して、被災者から再調査の申請が多く出された。

 (適正・迅速な被害認定)
 災害の被害認定基準については、それまで消防庁、警察庁、建設省、厚生省と各々判断基準が異なっていたことから、混乱を防止するため、昭和43年6月にこれら関係省庁の基準が統一された。
 この統一基準により被害認定されることとなるが、特に、地震災害においては住家の被害認定にはある程度専門的な知識を要するため、あらかじめ専門的知識を持った者の養成に取り組むことが必要である。

 (罹災証明書の迅速な発行)
 住家の被害認定に基づいて発行される罹災証明書は、被災者が各種施策を利用するための基礎資料となることから、被災市町村は、適正・迅速に罹災証明書を発行することが必要である。このため、市町村は、罹災証明書の発行業務を円滑に遂行できるよう、あらかじめ災害時の実施体制を検討しておくことが必要である。

 (2) 生活支援対策

・ 災害により家族を亡くした、あるいは家屋の倒壊・焼失等により住家を失った被災者に対しては、「災害弔慰金の支給等に関する法律」に基づく災害弔慰金・災害障害見舞金の支給、災害援護資金の貸付制度がある。これらはいずれも、被災者にとっては当面緊急に必要な資金であるため、今回の災害では、被災者から膨大な問い合わせや申し込みがあり、その実績は災害弔慰金の支給が5,739件(平成8年3月1日現在)、災害援護資金の貸付が55,613件(同)にも達している。

 ・ 今回の災害では、被災者の早期の立直りと生活の安定化のために、早急な対応が求められたことから、緊急措置として、社会福祉協議会が実施主体となって、死亡や負傷、住居の損壊等により当面生活に困窮している世帯に対して、生活福祉資金の特別貸付(小口資金貸付)が実施された。

 (災害弔慰金の支給等の事務処理体制の整備)
 ・ 被災市町村は、災害時において、災害弔慰金・災害障害見舞金の支給、災害援護資金の貸付制度について、被災者に広く周知するとともに、これらの事務を 適正・迅速に実施できるよう、応援を含め事務処理体制を整備することが必要である。

 ・ 生活福祉資金の貸付けの実施に当たっては、貸付事務の窓口である各市町村の社会福祉協議会自身も被災したことから、その実施体制の整備が困難であった が、全国社会福祉協議会をはじめ各都道府県社会福祉協議会の支援を得て実施 され、被災者のために大きな役割を果たした。大規模災害においては、今後ともこのような対応が必要である。


目次へ戻る

おわりに

 ・ 戦後最大の被害をもたらした阪神・淡路大震災の貴重な経験と教訓を生かしつつ、国や地方公共団体等の行政関係者、公益団体、民間企業、あるいは今回の 災害で活躍をしたボランティア関係者等の英知と努力を集めて、今後、起こるかもしれない大規模災害において、その応急救助を適切に行うとともに、被災者が将来に希望をもって生活できるような災害救助対策を展開できる仕組みを構築することが、震災の犠牲者に対する私たちの責務であろう。

 ・ 既に、このたびの災害の経験を踏まえて、例えば、平成7年6月には、災害時の緊急通行車両の通行の確保のための措置について、また、平成7年12月には、災害対策の強化を図るため、災害対策基本法が改正され、各省庁や地方公共団体等においてはそれぞれの防災計画の見直し等が行われ、所要の施策が展開されている。また、平成8年度政府予算案の中でも多くの災害対策関係経費が盛り込まれている。

 ・ しかし、こうした将来の大規模災害に備えた取組みは未だ十分とはいい難く、また現実的にも阪神・淡路大震災後の被災地域の復旧・復興対策、被災者への生活支援策等、数多くの課題が残されている。
 一方、ボランティアのめざましい活躍は、今後解決すべき課題はあるものの、21世紀に向けて、既存の行政活動とは異なる自発的な市民活動の展開の可能性を見せている。

 ・ 我が国の自然災害は、地震予知連絡会において、継続的に観測が行われている東海地震を始め、いつ大規模な災害が発生するか予断を許さない状況にあり、ひとたび大都市部で災害が発生すればその被害は計り知れないものとなるであろう。

 ・ 本報告書では、今後起こるかもしれない大規模災害に備えて、災害救助法を中心とする応急救助が円滑かつ確実に行われ、国民生活に安心と安定をもたらすような対策が実施できるように、個別テーマに即して極力具体的な方策を提言している。
 ・ 今回は、阪神・淡路大震災の経験を踏まえ、自然災害のうちの大都市直下型地震に伴う応急救助のあり方を中心に検討したが、自然災害に限らず、航空機 墜落事故など大都市における現代社会に特有の災害に伴う応急救助の方策等に ついて検討することも今後の課題であろう。
 また、災害救助法に基づく応急救助関係の対策のほかに、医療、廃棄物処理、あるいは人命救助等、関連する他の対策も数多くあり、こうした分野においても、大規模災害時の対応方策について検討しておくことが望まれる。

 ・ いずれにせよ、本研究会で検討対象とした災害救助法を中心とする応急救助の中には、今後の継続的な調査研究や検討を必要とする課題もあるが、本報告書に盛り込まれた数々の提案を、可能な限り行政施策の中で具体化して、今後、万一大規模災害に見舞われた場合にあっても、地方公共団体が迅速・適切に対応できる災害救助制度の充実を切に望むものである。

 ・ 最後に、私たち一人一人が、阪神・淡路大震災を始めとする、これまでの災害時における応急救助の経験を決して風化させることなく、災害に対する不断の備えと緊張感を持って対応していくべきことを深く心に留めておきたい。



トップ|index|中川 和之