行われていた断層教育−知らずに地震だと「もっとショックが大きかった」
災害情報学会ニュースレター第66号(2016/7) 特集:熊本地震

中川和之 時事通信社

 「まさか、こんな災害が起きるなんて」−。災害時に、よくテレビインタビューで聞かれる言葉だ。だが、今回は断層と地形を学んでいた地元の子どもたちがいた。
 断層が地表に現れた益城町の麦畑を、地震から2週間後に訪れた。そこで地元の若者から「私たちは小学校時代、このあたりに断層があって、地震があるかもしれないと教わっていたんです。地震が起きたときに、先生の言った通りだったと思って、見に来ました」と声をかけられた。
 その後、メールで「知っていても、実際に起こるといろんな悲しみがありますが、知っているに越したことはないと思います。やっぱり断層の存在を知らずにこの地震にあっていたら、もっとショックが大きかった」との感想を寄せてくれた。
 いまは、教育委員会に勤め、直後は避難所対応をした先生とも連絡が取れた。町内の小学校に勤務していた時期に、住んでいるところの「土地の成り立ち」を知るための材料として布田川断層を取り上げていた。地震後、避難所担当となって久しぶりに出会った多くの教え子や保護者から、「先生が言っていた通りになりましたね…」と言われたという。地表に断層が出た畑の持ち主の教え子たちからは、「科学的に貴重だろうと思ってとってあります」、「調査してもらっていいです」などとも聞いたとも。先生は「防災を意識して行った授業ではなく、理科の授業だった」といい、「もっとまじめに、丁寧な授業をしておけば」と悔やまれてもいた。
 地元の人が、断層の存在を知っていた、という印象を持った防災関係者は私だけではない。実際、文部科学省の防災教育支援事業で、阿蘇火山博物館が行ったプログラムは、阿蘇大橋が崩落した南阿蘇村の旧立野小学校で行われ、小学生は断層の存在を現場で確認していた。同博物館の元学芸員によると、他にも断層を教育に使っていた先生がいたという。熊本県庁の対策本部室にも、布田川断層のトレンチはぎ取りが飾ってあった。
 足元を知っているだけで、防災対策が進むわけではない。ただ、知らなければ対策の取りようもない。熊本地震では、知られていたことが、どう対策に生かされ、生かされなかったのかを、よく検証することが求められる。

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