被災地のニーズに応えたもう一つの災害情報=調査研究成果を伝える大島での住民セミナー
災害情報学会ニュースレター第56号(2014/01) 特集:「伊豆大島の衝撃」を受けて

中川和之 時事通信社解説委員(日本ジオパーク委員会委員)

 被災直後から、被災地は調査・研究の対象になる。火山噴火のように、現象が継続・拡大する恐れがある災害は当然として、さまざまな分野の専門家が、研究対象として被災地を訪れる。それらの結果は、一般記事や科学記事として報道されたり、緊急調査リポートがWebで公開されたりする。
 その内容を最も知りたいのは、被災地の地元住民たちであるはずだ。しかし、2000年有珠山噴火での岡田弘北大名誉教授らや、2011年の霧島・新燃岳噴火での井村隆介九大准教授が、地元のホームドクターとして住民に説明を行った例などを除き、詳しい情報が提供される場がないのが通常である。
 伊豆大島は、2010年に日本ジオパークネットワークのメンバーに認定された。災害を含む大地の活動と、地域の歴史・文化・食などの関係を楽しむ場所がジオパークだ。日本のジオパークは、地質、地理、第四紀、地震、火山の5学会などが認定組織を作っており、科学が支える地域活動である。今回の土砂災害を受けて、島に拠点を置く研究機関である東大地震研究所と伊豆大島ジオパーク推進委員会が、実行委員会(委員長・中田節也東大地震研究所教授)を結成、住民セミナーを開催した。
 その第1回が、被災から1カ月余たった11月17日、大島町の北の山公民館で行われ、165人以上の参加があった。「分かっていたこと」「分かったこと」「分からないこと」と題して、産業技術総合研究所地質調査総合センターの川邊禎久主任研究員や東大地震研の森田裕一教授ら火山や地質の専門家が1時半、今回の土砂災害と過去の噴火の関わりなどについて解説。その後、1時間以上にわたって住民たちの質問に、できるだけ答えた。
 まだ行方不明者がいる中での開催に「早すぎるのでは」との心配もあり、最も知り隊であろう土砂災害の専門ではない内容だったが、アンケートに対し8割の人が「良かった」と回答。「まだ参加できない島民もおり、ぜひ今後も継続を」という声も多く寄せられた。今後、土木、地盤工学、応用地質、地すべりの4学会の緊急調査結果や、文科省の突発災害調査結果なども、住民セミナーを開催し、研究成果を地元住民と共有する計画である。
 地元の大島町も12月7日、国交省砂防部や気象庁、東京都大島支庁と合同で土砂災害の対応について、質疑応答の時間を十分取った説明会を行い、約370人の住民が参加している。


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