連載・「防災施策と情報提供 災害の影響を少しでも軽減するためにどうすればよいか」(8)

「テレビ・ラジオ・新聞」「全国・地方」で異なる意識 「被災者のために連携」では行政・メディアとも異論なく一致−内閣府懇談会

月刊『広報』(日本広報協会、2007年11月号)

 中川和之 時事通信社編集委員

 政府からの情報提供のあり方を検討した内閣府(防災)の「大規模災害発生時における情報提供のあり方に関する懇談会」では、委員の半数近い十一人が現役記者や記者OBという異色な構成となったこの場らしく、テレビやラジオ、新聞、全国版とローカルなどメディアの特性に応じた取り組みや課題のほか、災害対策本部の会議を公開するメリットなど、災対本部とメディアの連携のあり方についても議論が展開されました。この部分について、行政がメディアを規制するように誤解されないよう、報告書では座長コメントをまとめてはいませんが、参加したのは、災害情報に一家言のある記者たちばかりで、一方的にメディアの事情を語るのではなく、バランスの取れた議論が展開されました。

◇国の役割は、広域的な視野と縦割りの解消

 懇談会では、私を含めた新聞・放送の現役や元記者6人と森民夫長岡市長が、それぞれの立場から分析と提言を行いました。その場のプレゼン資料などは、報告書にも資料としてまとめられていますが、それぞれメディアの特性がよく分かる説明でしたので、祖の概要を紹介します。詳しくは、報告書にあるそれぞれ発表者の資料をインターネットで入手して参照してください。

 日本テレビ社会担当部長の谷原和憲さんは、民放テレビの災害報道がどう行われるか、コマーシャルの打ち切りから、ヘリ取材の活用、画面の周囲を使ったL字スーパーなどの手法が紹介されました。直後の段階では震度情報と身を守るなどの呼びかけ情報や、首都圏で10数カ所あるお天気カメラでの生映像を活用して伝えますが、政府が直後の対策に使う被害予測システムによる死者や家屋倒壊数の推定結果は、誤差があっても公開すべきと指摘しました。また、避難時の持ち出し品や、災害伝言ダイヤル171や携帯電話の災害伝言板の使い方などについては、事前に撮影したVTRを準備しており、地上デジタル放送の導入で地域に密着した「零細情報」も伝えられるため、記者の取材だけでなく、阪神大震災や有珠山噴火の際に活躍した情報ボランティアを通した情報収集も考えられるとしています。

 文化放送防災キャスターの高橋民夫さんは、災害で停電した時でも伝えられるラジオ放送の役割を紹介。阪神大震災の翌月から、NHKラジオ、TBSラジオ、文化放送、ニッポン放送、ラジオ日本、FM東京、J-WAVEの7つのラジオ局が在京ラジオ災害担当者会議を立ち上げて、東京電力、東京ガス、東京都水道局、NTT東日本、NTTドコモの5つのライフラン各社と電話会議システムを使って、ラジオ・ライフラインネットワークを結成。年に2回、全ラジオ局が定時に各ライフライン情報を共同で伝える「ラジオ災害情報交差点」を継続して行っていることが紹介されました。

 読売新聞大阪本社編集委員の安富信さんは、自社では「災害直後にこんな情報を出すべき」という社内論議はないと正直にコメント。人と防災未来センターの研究調査員としての経験も踏まえ、マスコミは迅速性を、行政は正確性を求めるということの難しさを指摘しつつ、被災者の命を救うという一点ではマスコミ側も何らかの協力は必要で、被害報道と共に生活情報を伝えていく役割は定着しているとしています。大規模災害時に国としては、被害の全体像を示すとともに、情報の空白域になりがちである被害が激甚な地域を推定して伝える役割があるのではと指摘しました。

 元朝日新聞の編集委員で関西学院大学教授の山中茂樹さんは、阪神大震災での神戸市や中越地震の長岡市などが行った災対本部の公開の意義を強調。政府からの情報提供へのニーズとして、自衛隊、緊急消防援助隊の出動や、近隣自治体の応援など、今後の対応見通しの情報や、各省庁がバラバラに出す情報をカテゴリー化して集約して提供する必要性を指摘しました。阪神大震災の直後、政府からの情報提供が、最初は各省庁ごとに出さましたが、その後、被災者側の視点でカテゴリー化されて提供されていたのですが、最近は再び、各省庁縦割りの資料をホチキス止めしたような集約にとどまっているのは改善の余地は大きいと言えます。

 愛知県の中京テレビ放送報道部参事の武居信介さんは、ローカルメディアとしての取り組みについて報告。三重県では、県が入手した情報を共有するためのインターネットサイト「防災みえ」のミラーサーバーをメディア向けに設けて、メディア側が自動巡回して入手した情報を自動放送する仕組みも作られているとし、愛知、岐阜、三重の3県とテレビ局がXML方式で自治体の防災情報を共有するシステムの構築と、被災自治体が情報発信するために県や周辺自治体などからの応援策などを検討しているという最先端の事例が紹介されました。国は、名古屋地区で先行するシステムの統一化を全国レベルで導入することも検討をと提案。その背景に、名古屋大学とマスコミを中心とした地震災害の勉強会・NSL(ネットワークフォアセービングライフ)の活動が大きく貢献しているとしました。また、三重県では東海・東南海地震が発生すると、被害がより派手な静岡や名古屋に報道が集中して三重が見捨てられる危機感を持っていることも紹介されました。

 私からは、阪神大震災の直後の首相会見など政府の対応とメディアの報道を振り返り、他の災害の例も出してトップ自身の言動がメディアとなることを紹介し、発言シナリオなどの準備の必要性を指摘しました。また、政府の方針を自治体に伝えるために、記者会見の詳報を自らが発信することで、国と現場との温度差を減らし、無用な混乱を減らすこともできるとしました。これは、国と自治体だけでなく、県と市町村の間でも必要なことです。情報は上に吸い上げるだけでなく、詳細を現場に伝えることが同じように必要です。今年の地震災害で、県や政府関係者も参加した被災地自治体の災対本部の会合で、県庁で開かれた災対本部会議での議論経過を詳しく知っていたのは自衛隊だけだったという笑えない話も聞きました。メディアに公開してこと足れりではなく、記録を残して伝えることが求められます。

 メディア以外では、長岡市長の森民夫さんが、自らの経験から報道対応について、「基本的には行政側とメディアの側との信頼関係をどうつくるかというのが最大のテーマ」とした上で、(1)地元の記者クラブで幹事役を。(2)災害対策本部長(首長)から住民への直接の呼びかけ、(3)都道府県などからの小規模自治体への広報支援、(4)災害対策本部会議の生中継−の4つのポイントを提言。災対本部会議の公開で、市民に行政を信頼してもらう機会を得たと話されていました。また、ふだんから地元駐在記者の歓送会などに必ず参加して若い記者とも信頼関係を作っておくことが大切と指摘していました。

◇災対本部会議の公開、意見は割れず

 また、報告書では、首都直下地震とメディア報道に関連する課題として、広域的な役割とローカル的な役割をメディアがどう使い分けるかや、メディア自身が被災地の中から報道することになるため、過剰に地震が取り上げられてしまう恐れがあるという問題点も指摘されました。これについては、阪神大震災の際に海外では被害が過剰に受け止められたという例もあり、それも織り込んでの政府のメディア対応が必要になるでしょう。そういう意味では、海外メディアも含めたプレスセンターの役割は重要だと言えます。

 このほか、議論の中で出された問題点などとして、情報が入らない段階で未確認情報をどう扱うかや、被災地外の人も被災地内に知人がいる場合には被災地内と同じ情報が欲しいなどという情報ニーズのミスマッチ、地方放送局の資本力では地デジにフル対応するのが困難な現状、活字メディアの特性として評価・分析に力を入れることと被災者のためということのズレ、都道府県をまたいだ生活情報の集約と提供なども課題とされました。

 報告書では、災害対策本部とメディアとの連携、特に災対本部の公開について、項を設けて議論を紹介。(1)役所が対策を立てていることが伝わる安心感、(2)記者会見を設定しなくてもいいという負担軽減−などというメリットが上げられ、「国が指針等を作ってくれれば、都道府県にも参考になる」という意見もありましたが、「決断力や判断力の乏しいトップであると醜態をさらすというおそれもある」という指摘もありました。どちらかといえば公開に消極的な意見もありましたが、絶対反対という主張はなく、テレビカメラの制限や映像中継など、混乱がないような公開の方法も紹介されていました。この議論の後の、能登半島地震、中越沖地震でも、自治体レベルでは公開されたケースが多く、徐々に定着してきたようです。
 また、「情報の発信源と発信する側の窓口、定例記者会見の回数・時間間隔などの明確化」というメディア側からのニーズのほか、「大規模災害時にも行政側と調整・交渉できるメディア側の窓口の設置を」、「被災者のために重要な役割を持つ地元メディアや地元記者を、地元自治体との窓口に」、「メディアも基礎知識の勉強を」などという行政サイドからのニーズも示されました。いずれも、双方が対峙するのではなく、ともに重要性を理解し合っての議論となりました。

 次回は、懇談会のために初めてまとめられた貴重な資料を詳しく紹介します。(了)

大規模災害発生時における情報提供のあり方に関する懇談会(内閣府hp)


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