「防災|実務のガイド 担当者のここまでとここから」〔寄稿コラム〕

高橋洋著(2005/06)日本防災出版社

あなたの自治体は、災害救助法を活用できますか?

 中川和之(時事通信記者、元厚生労働省大規模災害救助研究会専門分科会委員)

 市区町村が自力で対応できない規模以上の災害が発生した際に、住民の応急救助を行うためのお金の出所を規定したのが災害救助法です。法には「都道府県が」と書いてありますが、自治体がやるためのお金の大半を支出するのが都道府県と国ですが、住民と向かい合って都道府県が避難所を運用してくれるわけはなく、運用は紛れもなく市町村がやることなのです。災害対策基本法が出来るまで日本の災害対策の基本法だった災救法は、現代風には細かく法に書いてありません。ここが、この法律のミソでもあり、使いにくいところでもあります。でも、これを知っているかどうかは、直接はこの法律の範囲とは言えない被災した住民の生活再建や地域の復興につながる重要なポイントなのです。

◇「臨機応変」に対応するための特別基準

 阪神・淡路大震災の反省を踏まえて作られた厚生労働省の「大規模災害における応急救助の指針」(1997年6月、2002年3月改正)には、「災害の規模や態様は千差万別であることから、災害発生時には、本指針に基づきつつも、臨機応変な対応が必要である」と書いてあります。やろうとすれば、行政の責任でかなりのことができるという法律で、多様な姿を見せる災害に対応するためには相応しい法律とも言えます。
 震災当時、この法律のありようをよく知らなかった兵庫県の幹部が、良かれと思ってでしょうが、市町に対して「法律に沿ってやれ」と指示を出しました。ところが、避難所の開設期間は発生から7日以内という規定があります。この規定は今でも同じですが、小規模な水害レベルを想定しており、長期化するときは「特別基準」で延長していました。
 当時の被災自治体は、厚生省がそんな指示を出したと勘違いして「国は何を考えているのか」と混乱したそうです。数日経って、兵庫県庁の知事公館に、各省庁の現地本部が出来てからようやく誤解に基づいた指示だったと判明しました。
 通常の法運用では大臣の承認を求める特別基準は、本当に特別なときにと考えられるでしょうが、災救法に限っては特別基準を常に念頭に置くことが求められます。しかも、書類でのやりとりをしなくても、「緊急やむを得ない場合は、とりあえず電話により協議し」なんてことが局長通知に書いてあったりします。たとえば、仮設住宅のエアコン設置費は、季節や地域によって不要なこともあるとして現在でも基準費用には含まれていないのですが、これも用意された特別基準ですので簡単に認められることになっています。

◇毛布とおにぎりから、暮らしの再建支援へ

 阪神・淡路大震災の反省から、例えば避難所にテレビ・ラジオや公衆ファックス、仮設風呂、洗濯機や乾燥機、冷暖房機器、間仕切り設備、仮設スロープなどを設置する費用もが認められるようになっています。仮設住宅の設備などもしかりです。当時は、被災者ニーズに応じて順次あとから配備していったので、相当程度の対応がなされていたのにも関わらず、被災者にとっては満足感の低い結果になっています。さらに、被災者が「待てばまた新たな支援プログラムがあるのでは」との気持ちを持たされてしまうことで、早期の生活再建への動きを阻害した要因にもなっています。
 幸い、今は指針として示されていることで、ニーズが上がってから特別基準でいちいち調整することなく、行政サイドから必要性を判断して展開できるようになっています。実際、当初から避難の長期化が予想された有珠山噴火の際には、避難所にすぐさま間仕切り設備の配置が進められました。

◇事前に想定し、住民とも合意形成を

 でも、そのためには、起きてから考えるのではなく、平時から想定される災害を念頭に置いて、どのようなメニュー展開があるのかを事前に考え、できれば避難所運営協議会など、従来の自主防災から一歩進んだ形で住民との合意形成を図っておくことが重要です。
 避難所開設だけでも大変ですが、在宅被災者をどう支援するか、学校再開や避難所閉鎖はどのタイミングかなど、決めねばならないことは膨大にあります。全てを事前に決めるのは難しいですが、決め方を地域住民も巻き込んで合意しておけば、被災住民も当事者として主体的に行動でき、生活再建や地域復興につながるのです。(了)


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