中川和之@時事通信 / 災害救援を考えるホームページ
98年8月水害 災害救援研究所臨時情報の履歴
ボランティアによる水害復旧作業マニュアル


ボランティアによる水害復旧作業マニュアルへのコメントと修正履歴


 個人メールや、メーリングリストで、このマニュアルに関するコメントや指摘を頂きました。以下に、その指摘の内容(改行位置変更あり)と修正履歴をまとめました。(文責・中川)


村山良雄@国立明石病院さんからの個人メールから 98.9.1

 小生の経験のある事を1つ。破傷風です。これはかなり地域差があり、当該地域が汚染地域であるかどうか分かりませんが、統計的には全国的に発生する危険があると考えます。しかし、昭和43年〜数年前までの間に生まれた人はほとんどが三種混合ワクチンを接種しており、問題はそれより以前に生まれた人です。地域のよっては、それ以前から接種されていた都道府県もあるようで、現実には35歳以上の人です。もし、怪我をしたらすぐに作業を中止し、傷の手当が必要です。
 他には現地の気温や湿度が問題になりますが、やはり、食中毒でしょう。それから忘れてはならない事は、水害等では結構、蛇も流され、ガレキの中にいる事もあり、暗くなってからの作業にはマムシ等の毒蛇に要注意です。
 あまり役にたつような情報でありませんが、、、、、。


 破傷風の恐れを明確にするため、「作業基準の決定」の文章を以下のように直しました。

 不潔な環境でのハードな作業であり、作業基準の遵守は重要である。ケガをした場合は、破傷風の恐れがある。また重労働であり、このようなケースの作業で突然死として考えられることは、1)心臓発作のリスクの高い人間が作業で発作、2)ケガ、3)脱水、4)食中毒の順で危険である。また、以下の基準で作業を行うことを、作業申し込みを受けた段階で作業依頼をした住民に十分説明しておくことがトラブル防止となる。


中溝徳夫@奈良県生駒市消防署さんからの個人メールから 98.9.1

水害経験は、余りありませんが、我々が災害現場で注意していることをmailします。
1、災害現場で最も多いのは、足の事故(釘の踏み抜き等)安全靴や底に鉄板等の入った長靴があります。それと滑り止めの効いた長靴、消防等はよく使用しています。
2、手の事故については、耐油性のゴム手袋があります。これを使用するのが良いと思います。
3。切創事故が多いです。災害現場では、出血より破傷風菌に注意をすべきだと思います。負傷したら、作業ができません。災害現場から離脱させるべきです。
4、チームを作る必要があります。1チーム2〜3名で行動させるべきです。行動原則は、決して1人でしない。
5、災害現場で役に立つのは、一輪車や軽四駆のトラック。小回りが効き災害現場での対向もしやすい。
6、余り重たい道具を使わない。出来れば電動工具やチェーンソ−等を多用すべき、ボランティアでは、機械に対する知識・技量に乏しく無理をしてしまう場合があるから制止する努力も必要です。
以上、思い立ったことだけmailします。

 小生も8/29〜30日栃木県の足利市に行っていました。しかし、関東平野にもたらす水害の恐ろしさをまざまざと見せつけられました。流れている時は手出しができない。人の無力を見た思いでした。神戸の震災とは違ったスケールですね。V-networkが出来るように頑張って頂ける 宜しくお願いします。

 以下の箇所を修正しました。そのほか、全体の体裁を直しました。
作業時の服装などのチェック
暑くても長袖、長ズボンの厳守。ヘルメット姿が望ましい。手袋は、少なくとも軍手、耐油性のゴム手袋があれば望ましい。靴は、運動靴→長靴(そこに鉄板が入ったもの、滑り止めのもの)や長めの地下足袋→安全靴の右に行くほど望ましい。

資器材の調達
家屋敷地内の作業でも、ユンボやベルトコンベア、チェーンソーなどの重機が必要になることがある。地元の建設事業者などに支援・連携を求められれば望ましい。トラックは大型より2t以下のもの、軽四駆トラックは小回りが利いて使いやすい。一輪車は必携。ボランティアは使用したことのない工具は事故防止のために使わない。
スコップ、竹ぼうき、ゴムホース、たわし、バケツ、バール、タオル・ウェスなどは消耗資材となる。一般からの少量物資より、民間企業などからまとまった支援が受けられれることが、作業上も望ましい。

戸田年総@東京都老人総合研究所さんのeml、wnnのメールより 98.9.2


 それで私の方から、一つ気がついた点を述べさせて頂きます。
 最初のご質問のメールで
「作業員の健康を考えて、長時間無理をしないで、交代要員を計画した作業のローテーションを守ることが重要です。水に濡れる場合は3時間交替でやっています。さらに重要なのは、ドロは不潔ですので、傷のある人は感染を防ぐためにドロの中の作業は控えてください。」
と書いておられ、次のメールで、
「ボランティア受付時の健康チェックカードの記入」が書かれていますが、「作業中、作業後の健康診断」や「傷病発生時の処置」に対する医療チームのバックアップ体制は整っているのでしょうか。
 これは是非必要だと思いますので、もし不十分な様であれば、これらの ml 等で呼び掛けて、早急に組織する必要があるのではないでしょうか。ボランティアの人は、全くの善意で行動されますので、救援作業で傷病を負われては見もフタもありませんので。

小島@InterCnetさんのeml、wnnのメールより 98.9.2

 現在としては、ほとんど出来ていないものだと思われます。というよりも、そのような視点が現場にはありません。また、床上浸水でつかっていた・・・というところでは、水が引いてしまえば、そのようなことまで、現場にいても必要とは思えないのです。
 これは、私自身も昨日、ハートネットさんの人手不足で畳上げの作業に行ったときに感じたことです。
 それに、水害は今回だけのことではなく、いままでにも毎年必ず発生しています。
#なぜ今回だけこのように騒ぐのかというのが、正直な感想なのですが、、、
 その度に被災地域では作業を行われていますが、ほとんどは住民の手で行われています。場所によっては、ボランティアが入られることによる混乱の方が面倒で断ったという事例もあります。
 とはいえ、できることなら、公衆衛生的な事前予防に力を入れてほしい。
 そのために中川さんたちが昨晩つくられたものが、現場にも反映してもらえればいいなと思っています。
 まあ、もちろん、バックアップが期待できればそれはそれで望ましいですが、ボランティア団体から医師会等へというのは、ちょっと抵抗があります。
 行政関係やemlの皆様からのお願いや要請が無いと、どうなるか・・・という気も同時にしています。
#日本海の時にも似たようなことはありましたが・・・

 例えば、emlのメンバーでどなたかいらっしゃるとか、同様にemlに参加されている方がこっそりお願いしてもらえるとか。。。そのような水面下でのことが無いと難しいと思います。大きな声ではいえませんがね。。。(^^;)
 また、新規に発掘・・・というのでは、人手不足の状態なので、現場作業にまわってもらえる方がいいと思います。(^^;)
 とりあえず、中川さんの所にあるマニュアル案は、公衆衛生の先生(確か助手でしたよね?>中川さん^^;;;;)も一緒になってつくったものですので、最低限、これが現場に伝わることだけでもかなり違うと思います。
#あとは実行に移すかどうかは現場次第ですけどね。^^;

 お二人とも、議論ありがとうございます。行政が被災するような大災害や、昨年の重油災害のように海岸での作業とかになると救護班は有効だとは思いますが、いわば通常の家庭がある場所ですから、地元のお医者さんに「こういった作業をボランティアがするので、もしケガがあったら診療をお願いします」などの一声をかけておくだけでずいぶん違うのではと思いますし、事故的なケガになると救急搬送かなという話を洙田さんともいたしました。

 とちぎボランティア情報ネットワークの事務局にメールを送ったところ、現地で活用されるとのこと。ありがとうございます。

正村@災害OUT・SIDEさんからの個人メール(98.9.3)です。長いので、項目ごとにレスを付けます。

 ボランティア本部の活動ですがこの本部と言うのは現場本部ですか?総合本部ですか? 現場本部も総合本部も本部にいる人は現場で活動を行うボランティアからは活動が見えてこないという事が軋轢を生む原因です。特に今回ボランティア参加者は一応一週間以上を基本とする事ですから長ければ長い人からクレームなどが出てきます。その為出来るだけ本部の人もローテーションを組んで現場で半日でも作業を行える様にされると現場と本部の垣根が解ける思います。
 対策としては、例え一週間であっても3日に一度位は本部関係の活動を行って貰う。本部の対応で聞きたいのですが?物資関係の在庫調整等の準本部活動はボランティアの役目ですか?それとも行政側の対応ですか?行政側であってもボランティアが参加できるのでしょう?そう言う所にもローテーションで入って貰えば良いでしょう。

 洙田@近大さんと考えた際の前提は、市町村単位の現地本部で、広域の総合本部は想定していません。また、まあ準備が必要な本部スタッフは別にして、日帰りを想定しています。別に宿泊は自費で出来る場所もないわけではないし、交通網がずたずたになるわけでもない。ずたずたのうちは現地に入るのは逆に復旧の妨げになりますから。
 長期に活動してもらったり、現場のリーダーの人は、本部関係の活動を行ってもらうのはいいアイデアだと思います。あえて、このマニュアルで本部の仕事を長々と書いているのも、そういう裏方仕事がきちんと整っていないと活動がうまくいかないことを、一般のボランティアの方にも理解して置いて欲しいという目的もあります。
*とりあえず、冒頭の部分で前提条件を明確にしておきました。
(修正前)
 このマニュアルは、どちらかといえばボランティアをする個人より、ボランティア組織や団体などを想定して書きました。
 →
(修正後)
 このマニュアルでのボランティア本部は、市町村単位の現地本部を想定し、本部スタッフは別にして、日帰りでの活動を想定しています。日帰りできないほど交通が回復していない場合には、現地入り事態が復旧の妨げになりますし、広域だという場合は全体の構想が異なると思います。どちらかといえばボランティアをする個人より、ボランティア組織や団体などを想定して書きましたが、ボランティアをされる方も本部でこのような準備や体制があってこそ現場で活動がスムーズに行くことをご理解ください。


正村@災害OUT・SIDEさん個人メールの続きです。

 活動ニーズについて
 活動のニーズの受け付けで最も考えることは、出来ないことは出来ないという判断をハッキリさせることです。こういう場合は現場で答えさせるのでは無く、本部に必ず持ち帰る事を徹底させてください。かつて、現場に入っていたボランティアが勝手に約束して対応に苦慮したことがありました。
 また、活動を終息させる為には、早期に地元社協や地元団体への移行を進めて日常活動への移行させることが大切です。地元社協や行政側の福祉課の方々と調整を行って「何処までがその町の福祉レベルか」をお互いの認識として持っていなければニーズに振り回される恐れがあります。ニーズ管理には注意してください。


 ご指摘はごもっともです。住民への活動の広報や作業基準の部分をあちこち修正しました。あの段階では、安全管理に重点を置いてましたので、この部分が不十分なのは分かっていたのですが…。ありがとうございます。
(修正前)
被災者からの活動ニーズの受付
 住民への活動の広報

活動内容や受付の場所を記したビラなどで住民に知らせる。より救援が必要な人を優先することや、自力で可能な人より老夫婦・独居老人・障害者家庭などを優先することを明示しておく。危険物、発火物などがある場合には、処理を専門業者に委託した後の作業となることなども明記しておく。

(修正後)
*長文なので、マニュアルを参照してください。

活動内容の決定
 ニーズの把握と内容の決定
 冒頭に記載してあるようなさまざまな活動内容のうち、今回のボランティア活動としてどこまでやるのかを決める。被害状況の把握の際に大まかなニーズも調査し、市町村の災害対策本部と調整で、住民がやること、ボランティアが手伝うこと、行政がすることを明確にする。これは、その時点では行われていない対策が、行政によって準備されていることが少なくなく、自治体への情報提供がきっかけで、行政の責任による対策が行われることがあるからである。水害時は、地元行政や社会的なインフラが阪神大震災のように大規模に機能喪失することは考えにくく、ボランティアがいるから仕事を無理に作り出すようなことは避ける。
 活動期間の決定
 当初の想定した活動を行うために必要な活動期間を想定する。臨時のボランティア本部を設置しての対応が必要な期間は長期間には及ばないし、被災地の負担を考えつつできるだけ短期を目標とすべきである。活動準備の段階から、行政だけでなく地元の日常活動を行っている団体・組織と連携し、臨時本部の活動期間終了後のフォロー体制を検討しておく。
 個別ニーズと現場活動
 当初に決めた活動内容を拡大する際には、活動現場で勝手な判断をしないよう徹底しておく。そのために、現場との情報連絡手段と連絡責任者を確保する。また、現場での裁量の範囲を事前に現場リーダーに伝えておければ望ましい。活動内容の変更は、ボランティアならではの臨機応変が求められる一方で、関係機関との調整が不可欠になる。安全上、非専門ボランティアの範囲を越える場合は当然対象外となるが、対応が可能な個別事情による活動範囲の拡大であっても、その事情が広範にある場合は慎重に対応する。いくらボランティアと言っても「あっちのボランティアさんはやってくれた」と言われて、対応能力以上の活動を迫られかねないからである。
 住民への活動の広報
 活動内容と期間を決定後、できるだけ速やかに活動内容や受付の場所を記したビラなどで住民に知らせる。やることは「これだけ」と明記するほうが望ましい。より救援が必要な人を優先することや、自力で可能な人より老夫婦・独居老人・障害者家庭などを優先すること、危険物、発火物などがある場合には、処理を専門業者に委託した後の作業となること、下記の活動基準に沿って行うことなども明記しておく。


*作業基準の「住民の仕事とボランティアの仕事の区分原則」に次を追加
 住民作業の補助的役割がボランティアであり、必ず住民も参加して行う。高齢者などの場合は、本人か関係者の立ち会いで作業する。住民の許可の元で、作業前写真と作業後写真を取ることも有効である。予定作業以外の作業を頼まれた場合は、原則として本部と連絡を取り合ってから対応し、現場で安請け合いは厳に慎むこと。


 98/10/1に洙田さんと、健康安全管理上重要な点の文字をゴシック化するとともに、一部修正をしました。

ボランティアによる水害復旧作業マニュアル
中川和之@時事通信 / 災害救援を考えるホームページ
98年8月水害 災害救援研究所臨時情報の履歴