行政と災害ボランティアに関する主な論点


             21世紀の関西を考える会
              安心・安全な都市地域づくりチーム
ボランティアを含んだ都市・地域防災検討チーム
              神戸大学文学部  渥美公秀

本会の趣旨とこれまでの経過

 21世紀に向けた激しい時代の転換期にあって、世界、日本、そして国内の各地域いずれにあっても、自らの進むべき進路、明確なビジョンを打ち出すに至っていない。このような中にあって「21世紀の関西を考える会」は、企業、大学といった個々の立場をこえて、産業界、学界、官界をはじめ、広く社会の各分野、各層の英知を結集することにより、21世紀のグランドデザインを描き、その実現に向けての戦略・手順を策定することをめざし、昨年4月設立された団体である。そのため幅広い研究活動を実施するとともに、その成果を提言し、関係各所に具体化のための働きかけを行うこととしている。

 総合的なグランドデザイン策定にいたるまでの過程として、すでにいくつかの検討チームにより各方面の検討が開始されているが、阪神・淡路大震災からの復興のあり方を多面的に検討するため「安心・安全な都市・地域づくりチーム」(リーダー:新野幸次郎神戸都市問題研究所所長)が発足した。この検討の一環として、学識経験者、企業人、ボランティアなど各分野のメンバーからなる「ボランティアを含んだ都市・地域防災検討チーム」(リーダー:渥美公秀神戸大学文学部助教授)が設けられ、神戸、芦屋、西宮の被害地で活動を継続しているボランティア団体の代表者との対話を行い、災害時におけるボランティアのあり方を中心として検討を行ってきた。

 今回、これまでのヒヤリングの成果を踏まえ「行政とボランティアのあり方」について厚生省において目下進めておられる今後の災害救援のあり方に関する検討に資するよう、とりまとめたものである。

 なお、今後、さらに企業、行政、市民などへのヒヤリングを重ね21世紀の新たな社会のあり方について提言をとりまとめていくこととしている。

行政と災害ボランティアのあり方に関する検討事項

基本理念

 1 災害救援においては、被災者・被災地の自立支援を基本とする
 1 行政とボランティアは自律的連携をとりながら災害救援にあたる
 1 平時より行政と各種ボランティア団体が「顔の見える関係」を維持しておくことが災害時に有効である
 1 産官学民が連携してボランティアの機能を活用し、住民が官に全面依存しない自立した住民主導型社会を築く
 1 公平・平等原則など、通常のルールをはずすことを容認する必要のある場面が存在することを認識する
 1 行政とボランティアがしたたかに互いを活用する姿勢が必要である

行政と災害ボランティアに関する主な論点

論点1 行政と災害ボランティアとの連携・役割分担
 行政機関も被災するような大規模災害の場合、公共財としての行政と基本的に無償のヒューマンウェアであるボランティアが連携して、被災者・被災地の救援にあたるとともに、行政とボランティアの相互支援を行う必要がある。行政の立場からすれば、行政が被災した場合は当然、被災しないケースでも、災害時には日常の業務量を大幅に上回る仕事が求められる。
 より被災者への応急救助を効率的に行うために、行政側がボランティアとの役割分担を考えることは不可欠である。ボランティアの立場からすれば、行政に頼らずに、ボランティアをしようとしても、行政が持っている情報がないと、効果的な活動ができず、行政とは情報の共有が求められる。このように行政と災害ボランティアが連携することによってより効果的な災害救援を行うことができる。
 (事例)西宮市におけるNVN、芦屋市における芦屋ボランティア委員会などは、行政と災害ボランティアとの連携をもとに災害救援を展開した例である。

 発災直後は、人命救助に特化した行政組織(自衛隊・消防・警察など)による救援活動と地域ボランティアによる人道的見地からの近隣地域の救援活動が展開される。これら緊急期の人命救助に関する問題は大いに議論されてしかるべきであるが、以下の諸節で対象とするのは、人命救助が中心となる発災直後の時期における連携ではなく、その後の中長期的な救援・復興活動における行政とボランティアとの連携である。

 以下の諸節で、行政とボランティアの連携に関する具体的な論点を整理するが、ここでは、以下の議論に共通する事項を列挙する。 

(1)行政単位
 ボランティアの受付や、救援物資の受付・配布などを効率的に進めるためには、適正規模の行政単位を対象とした運営が必要である。そこで、以下の議論で対象とする行政単位は、市町村行政および政令指定都市では区とする。

(2)行政とボランティアの連携による災害救援の概念図
 (ここは最終的に渥美先生が入れます)

(3)行政とボランティアの連携において検討しておくべき諸問題
 行政内部の連携を充実させると同時に、災害ボランティア間の連携も構築・維持しておく必要がある。例えば、避難所運営を担当する部局と食料配給を担当する部局との連携、救援物資配布を担当するボランティアと被災地の状況に関する情報を扱うボランティアとの連携などを維持していくことは、被災者・被災地全体を効果的に救援するために不可欠である。
 (事例)西宮市では、市行政と西宮ボランティアネットワークがこのような連携をとりながら効果的な救援活動を展開した経緯がある。
 連携の効果を上げるためには、行政と災害ボランティア本部とが常に互いに「顔の見える関係」を構築・維持しておく必要がある。
 行政とボランティアは相互に入手した情報を互いに開示して、救援・復興の状況を把握しながら、連携のあり方を臨機応変に変容していくことが必要である。例えば、避難所の状況が推移するにつれ、緊急期に必要とされた多数のボランティアを避難所から引きあげることも、こういった情報交換の成果をもとに実施されるべきである。
 行政には公平・平等の原則が求められる。一方、ボランティアはその原則にとらわれず特定個人・業者へのサービスも柔軟に行うことができる。両者が連携するに当たっては、それぞれの特長を活かして、互いに保管しあうことが必要である。
 行政は、行政でないと責任をもってできない仕事を速やかに進めるべきであり、それを可能にするようにボランティアが、それ以外のボランティアによる運営が可能な業務を行うことによって行政支援を展開する必要がある。行政でないと責任を持てない業務としては、遺体の取り扱い・保険福祉サービスのコーディネート・仮設住宅関係業務・り災証明発行、および各種資金の分配などがある。ボランティアによる運営が可能な業務としては、救援物資の分配や避難所管理などがある(cf. 厚生省災害対策マニュアル)。
 災害時のボランティアとの連携を考える際に、従来のボランティアという概念にこだわらず、スポーツの同好組織など広く地域での社会活動を視野に入れ、連携することが必要である。地域のボランティアの中に、企業の社会活動も含めるべきである。労働組合活動も同様である。
 社会福祉型の地域ボランティアは、日常的なその対象となる社会的な弱者の人への対応に、専念してもらうことが重要である。在宅型が多くなる弱者への支援は、地域ボランティアの活動が重要である。また、その福祉担当の行政職員は、できるだけ弱者対策に専念できる体制が望まれる。
 行政と災害ボランティアが日常的に顔を合わせる場を設けておく。それぞれの得意分野、処理能力、動員力を把握しておき、できるだけ顔の見える関係(ネットワーク)を幅広く作っておく。災害担当部局だけではなく、トップに近い部局が必ずメンバーに入ることが必要である。ただし、何事も暗黙の了解だけに終わらすことはなく、会議等を通じて協議事項を確認しておくことが重要である。
 (事例)西宮市では、ほぼ連日、行政職員と(トップレベルの場合も担当部局職員の場合もあった)災害ボランティアが会見し、書類を交わすなどして明示的に協議事項を確認しながら活動した。一方、芦屋市では、行政職員と災害ボランティアとの協議の場は設けられたが、会議といった形を取らず、両者の関係が明文化されることがなかったことが、災害ボランティアの活動の継続を妨げた。

論点2 災害ボランティアのコーディネート
(1)コーディネート組織
 災害ボランティアのコーディネートとは、ボランティア団体および個人の自立性を軸としながら、相互の調整を図ることを指す。ここで重要なことは各ボランティア団体・個人の活動そのものに指示を出すというのではなく、各々が独自に展開する活動を調整しながら、活動の重複を避け、時事刻々と変化するニーズに応じた活動メニューを提供していくことである。従って、活動そのものの実施に対して具体的な指示を出していくボランティア団体やグループのリーダーとはその機能が異なる。
 ボランティアの分類(資料参照)でいうところの、団体所属ボランティアおよび個人ボランティアをコーディネートする。

(2)災害ボランティア本部コーディネーターの選出
 多種多様で刻々と変化するニーズに対応していくために、コーディネーターは、コーディネート業務に専念する必要がある。そのためには、コーディネートを専門とするその行政区域内のボランティアの本部組織が必要であり、行政は、組織設立に関して、積極的な支援を行う必要がある。
 発災後、できるだけ早い時期に、ボランティア団体と行政の参加する会議を開催し、参加者の互選で選出する。この方法を採ることにより、各団体の個別事情や行政の体制を考慮に入れた観点から、的確にコーディネータを選出することができる。
 コーディネーターには、災害救援に参加するボランティア団体における活動経験や政治的・宗教的中立性、組織の経営感覚のような要件が求められる。災害担当部局だけではなく、トップに近い部局がボランティア本部のメンバーに必ず入ることが求められる。
 (事例)西宮市では、発災後2週間以内に、市内で活動中のボランティア団体の代表者と西宮市の代表者による会議を開き、現西宮ボランティアネットワーク代表を本部コーディネーターとして選出した。その結果、各ボランティア団体はその特定業務に専念し、かつ、他の団体に関する情報を常に入手することができた。

(3)コーディネートの原則
 何かを決定して守らせるようなコーディネートはうまくいかない。自由な活動のほうが継続的に力を持つ。
 (事例)NVNでは、ボランティア団体代表者会議では、「多数決は採らない」という姿勢を当初から貫いていたために、各団体の独自の活動がより効果的に行われた。また、がんばろう神戸!では、誰もが使用できる場所の設営を行い、使用者の自由な活動場所として提供したことで、活動の多様性が生まれた。

(4)その他留意事項
 災害ボランティア本部と行政が日常的に顔を合わせる場を設けておく。それぞれの得意分野、処理能力、動員力を把握しておき、できるだけ顔の見える関係(ネットワーク)を幅広く作っておく。
 ボランティア活動と無縁の人が、災害時のボランティアの中心的な活動を行うことは無理である。ただ、多くの人手を必要とする現場で、未経験の人が活躍できる場が多いのも災害である。
 従来のボランティアの概念の代表である福祉ボランティアとしての社協は、結果としてコーディネーターとなることはあり得るが、一義的にはその得意分野である災害弱者救援を行う組織として、ボランティアの本部に参加することが望ましい。在宅型が多くなる弱者への支援は、これらの地域ボランティアの活動が重要である。
 YMCA、ボーイスカウト、少年野球などの地域ボランティアの持つ実行力は、災害時には有効である。

論点3 行政によるボランティア支援

(1)ボランティアの本部設置
 行政の活動区域単位(市区町村)ごとに、ボランティアの本部拠点が必要であり、行政が確保する。設置場所は、行政側の災害対策本部に近い場所に用意するべきである。
 (事例)西宮や芦屋、初期の長田区では、庁舎内にボランティアの拠点が設けられ、連携が行いやすかった。
 本部は、事務所だけでなく、本部ボランティアの寝食の場ともなるため、24時間活動可能な場所が必要である。庁舎内が最も望ましいが、場所がなければ公的施設や社協の事務所でもやむを得ない。ボランティアにテントを立てさせることは極力避けなければ、被災者の「テント村」を誘導してしまうことになる。
 (事例)西宮では、NVNのボランティアは庁舎内に寝泊まりし、各避難所のボランティアも避難所内や近隣の公的施設内に入ったため、テント暮らしの被災者を早期に避難所に誘導できた。芦屋ではボランティアたちのテントは、浜に集約して立てさせ、被災者とは一線を引けたので、市内に被災者のテント村ができずにすんだ。神戸では、ボランティアを行政が受け入れなかったため、各地にボランティアのテント村ができ、被災者自身のテント設置を拡大、長期化を招いた。
 本部には、事務机、電話、fax、パソコン、ワープロ、コピー機、印刷機などの一般の事務所に必要な機器のほか、アマチュア無線や業務用の無線、防災行政無線なども必要で、これらはすべて行政が用意する。この際、本部の必要機器を民間からの寄付を求めることも念頭に置く。また、ボランティアが自炊できる設備も本部には必要である。
 行政は、平常時に本部拠点となるべき場所や情報機器類の整備をしておき、日常的な活動でも活用しておくのが望ましい。
 本部が設置されたら、行政は直ちに設置の事実を、行政内部(国、県を含む)や各避難所、在宅の市民、マスコミなどに周知する。行政内部には、ボランティアの本部の機能が有効に機能するよう、各部局ごとに連携するよう「通達」などの行政手法を使う。
 (事例)西宮でNVNの活動がスムーズにいったのは、発足後直ちに市長名の通達がだされてから。
 行政の被災者支援策に対応したセクションがボランティアの本部に設けられれば、本部との行政の窓口を1本化せず、各問題ごとに担当部局が直接ボランティア本部の担当セクションと情報交換などを行うべきである。
 (事例)西宮では、食料はNVNの食料供給班=生活経済局、救援物資はNVNの日用品供給班=税務部、市民局(ユーパック)、輸送はNVNの運輸部=車両部、避難所はNVNの人事部=教育委員会など、セクションごとに問題解決をしたため、スムーズに活動できた。芦屋のボランティア委員会は、窓口が市国際課だけで各部局とのつながりはなく、いわばボランティアが勝手にやることを「暗黙の了解」していた形だったため、最終的に破綻した。

(2)ボランティアの登録、証明、保険
 ボランティアの受付、登録は、ボランティア保険をかけるためにも必要であり、ボランティアの本部、もしくは各避難所で実施する。
 ボランティアによる本部の設置前でも、ボランティアの受付、登録は行政でも行うように努力する。
 医師や看護婦、薬剤師、建築士など、一般ボランティアとは別に専門的な業務を行える人が本部窓口に来た場合は、行政の受け付け窓口(保健所や応急被災度判定など)で対応する。
 ボランティアの受付、登録用紙は、事前に共通のフォーマットを作って用意し、発災時に現地に持ち込む事が望ましい。
 ボランティア本部が一定の基準の元にボランティアの要望に応じて発行するボランティア証明書に対し、行政は何らかの公的な証を与えることが望ましい。
 (事例)西宮では、行政手続きとしては問題がないわけではないが、NVNが認定したボランティアに市長名の証明書を発行。失業保険の給付対象者の求職活動を免除してもらうこともできた。

(3)ボランティアへの情報提供・情報交換
 ボランティアの本部と、行政は、被災者の情報をできるだけ共有できる仕組みを作る。
 行政は現在進行中や今後行う予定の被災者救助の内容について、本部を通じてボランティアにも情報提供する。

(4)ボランティアの活動資源の提供
 本部での活動にかかる事務的経費は、行政が現物給付で負担する。現金での供与は、双方に余分な負担を強いるため、避けた方が望ましい。事務経費には電話などの通信費も含まれる。また、長期的に本部で使うボランティアの車やバイクの補修も現物給付されるのが望ましい。
 (事例)西宮では、NVNが必要な事務用品などを市の調達課に文書で請求し、現物給付を受けた。ガソリン代は、市が使っているガソリン券をNVNに供与した。補修費は市が対応できず、NVNの活動費で補った。芦屋ではガソリン代の支給はなかく、長期的に専属で活用していてもボランティアの持ち出しとなった。
 本部のボランティアに対して、行政は最低限の食材の提供も行う事が望ましい。
 義援金の枠に入らない「ボランティア様へ」などという行政へ持ち込まれた寄付金は、ボランティアの本部に委ね、各参加団体の活動資金や本部の活動資金などに活用する。支給の基準は、本部での各団体のリーダーなどの議論に委ねる。
 (事例)西宮では、市長あてや局長あてなど市職員個人名できた寄付は、義援金でもなく市としても受け取れないとしてNVNに提供され、本部だけでなく一般ボランティアの交通費や風呂代、ボランティア向けの食材購入費などに充当された。また、各地からボランティアへの資金提供の申し入れが神戸や芦屋の市当局にあっても市が仲介を断ったケースで、西宮市当局が「連携団体」としてNVNを紹介したため、活動資金を受け取ることができた。
 社協で行ったボランティア団体活動支援のための募金の配給は、各行政単位ごとに設置された本部に優先的に回し、臨機応変での支給を可能にするべきである。市町村長か社協の理事長の承認を個別的なグループに求めても、手続きが煩雑なだけで機能的ではない。
 (事例)NVNでは、最高額の100万円を助成されたが、他の寄付された金を含めて最高100万円から最低5万円で各ボランティアグループに再配分した。
 物資の配給など、ボランティア本部が必要と認めた車両に、警察の通行証が発行されるよう、行政が手続きを支援することが必要である。できれば、平常時に行政と警察が取り決めしておくのが望ましい。

(5)本部活動の長期化支援
 本部機能は少なくとも2、3カ月は継続し、応援主導から地域主導型へ変化しつつ継続していくため、行政は活動の長期的な財源確保になるような事業委託を検討する。
 法人格の付与や公益信託の活用などで、安定した活動を行えるための支援も、必要に応じて行うことが望まれる。

論点4 ボランティアによる行政支援

(1)単純作業
 物資や食料の配布など、人手が必要な単純作業が、災害ボランティアの最も得意分野である。監督責任者としての行政職員がごく少数いればすむ業務が、災害の際は多く発生する。労働力が確保されることによって、行政でなければ責任を持ってできない業務に、より精力を傾けられる。
 被災初期は物資などは必ずしも全員に行き渡る量が確保されるわけでないため、公平・平等の原則で対応が求められる行政が対応するより、臨機応変に判断できるボランティアが間に入ることによってよりスムーズに進む。
 これらの単純作業も、被災地の復興状況に応じて、地元の業者に仕事として発注するように切り替えることは、行政もボランティアも念頭においておく必要がある。
 アルバイトではないことを、念頭に置き、アルバイトとして雇用したほうがいいケースは、明確に雇用する。
 (事例)西宮でNVNが行った単純作業の例では、1物資の集積、仕分け、配布2食料の配給3給水車に同乗しての配水支援4各地での清掃業務5病院での洗濯支援6市庁舎内のメールボーイ7罹災証明時の人員整理などがある。NVNの大きな仕事は、これらの業務への人材派遣業だった。半年後に復刊した市の通常の月間広報誌の配布は、以前からアルバイトを雇用していたため、NVNを通じてボランティアたちにアルバイトとして雇用し、配布した。
 
(2)情報収集
 非公認の避難所の発見、各避難所に収容された被災者数把握、在宅の被災者数把握は、多人数で対応できるボランティアが機能を果たす。統一された情報収集が望まれるため、行政はボランティアの本部機能が立ち上がる以前に被災地に入ってきた各ボランティア団体や個人ボランティアにこれらの情報収集を行ってもらえるような、統一的なフォーマットをできれば事前に準備しておくと、よりスムーズに連携できる。ボランティアの本部の早期立ち上がりも重要である。
 ボランティア本部へは、そのコーディネートのなかで、行政が必要とする被災者のニーズの情報が入る。ボランティア側は、行政が対応しやすいように、情報に論評を加えずに提供することが重要である。
 避難所の生活実態調査、仮設住宅の入居状態調査など、行政が直接行うと、被災者の反感を買う可能性がある調査を、ボランティアが引き受けることができる。業者委託でも被災者の反感につながりかねず、善意の第三者であるボランティアが緩衝剤の役割を果たせる。
 (事例)西宮ではNVNがこれらの調査を引き受け、被災者の本音を引き出すことができた。行政職員では、話の入り口で苦情を並べられて終わる可能性が高い。
 ただ、個人のプライバシーに関わる部分は、ボランティアには極力委ねないようにすることが望ましい。

(3)情報提供
 ボランティアたちが収集した風呂屋の復旧状況など生活情報を、ボランティア本部で集約して、被災地の地図作りなど、行政ではできないきめ細かい情報提供が可能である。また、行政の広報資料などを、ボランティアが配ることもできる。

(4)市民相談
 ボランティアの本部では、行政の各種業務を結果として把握するため、どの問題はどの担当であるなど被災者からの相談の第一次的な受付を行うことができる。
 また、行政で設置することが望まれる各被災者に向けて住宅の修復から生活保護の必要の有無などを1カ所の窓口で応対できる統一相談窓口については、プライバシーの問題に関わるため、ボランティアだけでは応対できないが、事務的な単純作業などでバックアップが可能である。
 
(5)個別企業の受け入れ
 営業・宣伝活動との境界で受け入れをためらう個別企業からのボランティア提供は、「営業活動、布教活動、政治活動はしない」など、ボランティアの本部が一定のルールを作ることで、積極的に受け入れられる。

論点5 救援物資・食料

(1)民間の物資は民間(ボランティア)で
 民間からの救援物資は民間でさばくことを原則にする。企業からの大量の物資も同様に扱う。行政職員の無駄遣いを避けると同時に、ボランティアは公平・平等の原則にしばられることなく、臨機応変にできる。各避難所や、在宅の被災者の必要に応じて届けるのは、公平・平等の行政には無理である。被災者からのニーズもボランティアが受け付けてボランティアの本部でコーディネートする。本部は、物資を仕分け後に台帳を作り、出荷状況を把握し、行政へは結果を常に報告する。
 (事例)西宮市は、この原則を作ることによって、市職員の負担は大幅に軽減され、同市内への物資はすべて詳細な仕分けをされて管理され、余剰物資を新潟の水害や北朝鮮への支援に回すことができた。芦屋市ではユーパックのみがボランティアに任され、中途半端であった。神戸市はすべて市が管理しようとし、期限切れの牛乳パックが山積みにされたまま対応できない市職員をボランティアが「見ないことにしろ」として仕分けして避難所などに配給するルートを作った。

(2)被災地以外での仕分け
 個人からの救援物資は、被災地に直接入れない。集荷した地元でボランティアを募って仕分けし直したうえで送る。郵政省と共同で災害時に被災地外でのボランティア活動とする。ユーパックは、いったん地域語との中央局留めにし、そこに人を集めて物資を仕分けする。受付の段階で、ユーパックを開封することを承諾してもらう手続きをとっておけば、郵便法の問題は回避できるはずで、被災地外支援のマニュアル的なものを平常時に各地で作られていることが望ましい。
 物資の仕分け方法は、全国的な統一フォーマットを作っておくことで、被災地外での仕分けを容易にし、被災地での在庫管理も容易になる。
 (事例)大阪の団地自治会で、持ち寄った物資を仕分けして被災地での仕分けを不要にして送付した例などがあった。

(3)在庫管理と供給
 被災後の時間の推移によって被災者が必要とする物資が変遷するため、どの時期にどういう物資が必要になるかを、事前にプログラムしておき、行政が個人や企業に情報提供することで、大まかな目安が立てられる。
 被災地では、最大でも市区町村単位で作られているボランティアの本部ごとに物資の集積をし、統一的な仕分けフォーマットで蓄積しておく。被災直後(1週間以内)を過ぎると、被災者が生活物資の銘柄指定をすることも念頭に置き、同じ物資でもメーカーごとなどでの仕分けが可能なら対応する。企業での在庫管理の手法を取り入れ、ノウハウを持つ人を専門ボランティアとして確保することも有効である。
 物資の保管場所は、屋外は不可である。また、夏季には空調が可能な場所を確保しないと、せっかくの物資が無駄になるケースもあることを念頭に置く。集積・保管場所は避難所とは別の場所として行政が事前に決めておくことが望ましい。
 物資の集積場を管理するボランティア本部では、避難所を担当するボランティアグループ、在宅被災者を担当するグループごとに生活物資の受注を受け付ける仕組みを作る。
 将来的には、ニーズと物資の提供をオンラインシステムで受発注できるシステムを用意する(米国では既に開発されている)。各避難所などからのニーズ情報をオンラインで発注した結果が、物資ごとに自動的にニーズとして集約され、提供しようとする企業や個人に情報提供され、提供の時期、量などが登録されるとニーズのデータからはずれるようなPOSシステムの変形的なものを、政府が被災地で使えるような汎用パソコンでシステム作りをしておくことが、最も望ましい。被災地外での仕分け拠点からも、このシステムに接続することで、より効率的な物資配給ができる。
 市販薬であっても、薬は薬剤師などの専門家以外はタッチせず、一般の生活物資とは取り扱いを区分する。
 物資が少ない段階で配るためのノウハウを共有しておくことが望ましい。
 その活動のなかで大量の物資を扱うことに慣れている自衛隊の持つノウハウも貴重であり、自衛隊が人命救助など緊急活動が終了した後に、ボランティアと共同で物資の仕分け、供給に従事することも可能である。
 (事例)西宮市では、物資班の中心になったボーイスカウトに、スカウトの全日本キャンプであるジャンボリーの設営を協力した経験がある自衛隊が協力し、キャンプなどの智恵を生かして水のペットボトルでは最初は飲み水だけの換算で1本で5人、1週間経つと顔をふいたりするのも入れて1本で3人などと、時間的な経緯と物資の量に応じた対応ができた。

(4)物資の内容
 できるだけ、同じ種類、メーカーのものが大量にあるのが望ましく、企業からの物資が歓迎される。個人からの衣類は新品以外の中古衣料はニーズがない。被災者が日常使い慣れた銘柄を指定することを、ぜいたくと言わず、非日常の被災下で日常性を取り戻すために必要なことと考えることも、現代では避けられないことである。
 また、在宅の被災者向けが中心と考えられるが、米国でみられる世帯単位で共通に必要とされる物資を1パックにしたような救援物資の送付方法も1手段である。パックの仕方を検討しておく必要がある。
 
(5)食事の提供
 個人からの食料は、避けてもらうほうがベターである。最悪はユーパックに入ったおきぎりだった。
 早期に地元の市場を復旧させ、地元の食材などを活用することが復興には大切である。
 地元商店街などとの連携を前提に、食事の提供を切符制などの方式での現物給付を行うのも、被災地の支援である。
 大きな余震などが来た場合に、避難所へ戻る人が少なくないなどの実態を考え、余裕を持った食事の配給はやむを得ないと考えるべきである。
 炊き出しは、早期に避難所で独自の実施ができる体制をとれるようにするべきである。行政は食材を提供する。それまでの炊き出しボランティアは、行政で対応すると同時にすべてに行き渡らないと受け入れがたいが、その地域のボランティア本部でできるところから順番にコーディネートすることができる。被災者の不平等感が強くでることのため、できるかぎり勝手な炊き出しボランティアは避けてもらい、本部でのコーディネートを行うが、行政は口出しをしない。
<事例>
 西宮市:民間からの救援物資は民間でさばく
 NVN:ボランティアによる徹底的な在庫管理
 SVA:直接物資を集めていたが、その配布先までは考えたことがなかった。行政からの物資はほとんど取り扱っていない。
 「ちびくろ」:グリンピア三木、消防学校、神戸外国語大学などから物資をもらった。この情報は「がんばろう…」からいただいた。
 がんばろう神戸:1月の震災間もない頃に、救援物資として集まっていた牛乳が期限切れで飲めなくなりかけていると言う情報を聞き、物資貯蔵所へ強行突破をはかった。以来、ここのものは見て見ぬふりと言う形で物資を配っていた。実際には神戸市からは配給はされなかった。外からの定期便はあっても被災地には届かなかったのである。その後、3月ごろには配送業務が佐川急便に代わり、市長か区長の印が必要になり、「がんばろう神戸」は集配所に入れなくなった。区の課長の判断で、課長が物資を受領するということにして区長印をもらい、継続できるようになった。
 芦屋ボランティア委員会:1月末まで行政が水・毛布・食料を配っていた。この他はボランティアが担当した。個人物資は総べてボランティアに集まった。

論点6 時期別の機能と要員
 災害は、時間的な経過で、必要とされる仕事が変わる。その時間経過を念頭に置いたボランティアの活用が必要である。行政は、早期に時間的な推移に応じた救助、復興メニューをとボランティア本部に示し、被災地の自立を支援するという原則のもとで、外部ボランティアから地域ボランティアへの移行、外部の撤収などのスケジュールを計画する。
 A 初期は人命救助が中心になる。外部のボランティアより、内部の相互扶助であり、官民全ての住民がボランティア的に活動する。そこでは、消防などが養成しようとしている人命救助や消火などの知識を持つ救助のボランティアの活躍の場にもなる。
 B 障害者、高齢者の安否確認に行政、警察、社協、社会福祉事務所などの職員と、地元の市民活動系ボランティアと、早期に被災地入りできるバイク隊などの情報ボランティアの連携が可能になる。
 C 集まり始めるボランティアの受付窓口の設置。行政が対応不能であれば、コーディネート本部設置後の再整理を前提に、窓口業務をとりあえず委任する対象を、団体系のボランティアから選定する。
 D 組織化されていないボランティアを被災地外の近隣市町で、いったん集まってもらうことが必要になる。
 E 集まったボランティア団体の連携と、コーディネート本部の設置を推進し、行政とボランティアの連携を開始する。同時に、行政の長は各機関にボランティア本部の業務開始を通達する。
 F 被災状況の把握、避難状況の把握のための情報ボランティアの活用。各避難所ごとのボランティアとの連携。指定外避難所の把握と、可能ならば指定避難所への誘導への連携。避難所での安否確認の連携。
 G 食事、物資の供給。一定のルールが見えてくるまでは、軽々に業者委託はしない。行政が公平・平等で配給する物資、食料では過不足があるのを前提に、ボランティアに機能してもらう必要がある。被災者の被災している段階での生活支援は、できるだけボランティアの手を借り、行政は復興関係の業務に専念するのが望ましい。
 H 炊き出し支援、被災者への情報の提供(地図作りなども)、引っ越し支援、さまざまな慰問、入浴支援(専門ボランティアでないと危ない)などが、メニューとしてでてくる。食事の供給が業者に移行する段階から、撤退のプログラムはスタートする。
 I 行政事務としての義援金の支給時に奈良大などが長田区で地図情報システムを活用して支援した例などから、行政の固有業務とされる部分でもボランティアを活用することで、よりスムーズに業務が進められる事も念頭におく。
 J 食料を安全に安定供給するため業者委託に切り換えるに当たり、日用品救援物資の避難所に対する受注体制を確立し、ボランティア活動の効率を上げる。
 K 市内の既存団体組織の復興に関する支援(商業復興・子供会等の活動)に対して、全国からの協力の結集を図る。同時に、市内での経済復興を図る。
 L 市民相互扶助活動推進のため、市民を中心としたボランティア活動への切替えを図る。ボランティアのコーディネート本部の意識の衣替えが重要である。
 M 仮設住宅に移ると、地域型ボランティアの活動になる。従来の組織だけに戻るのではなく、震災で始まった地域の新たな活動を継続して根付かせるような意識が必要である。(NVN、がんばろう神戸など)。仮設住宅では、自治会活動への誘導、支援が求められる。そこでは、被害者意識が強い被災者自治組織になって、自立の妨げにならないようなプログラムが求められる。高齢者の場合は、仮設住宅が終の棲家になることも念頭に置いた在宅福祉型ケアを継続できる体制を作る必要がある。
 N 長期化する仮設生活に対するボランティアの支援は、「してあげる」という体制から「自立への手伝い」という一歩ひいた体制にする。
 
21世紀の関西を考える会 安心・安全な都市地域づくりチーム
ボランティアを含んだ都市・地域防災検討チーム 提言 (渥美 96/1/9)

 渥美リーダー名で同年1月厚生省災害救助研究会の資料として提出


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