到来しつつあるボランティア社会を前提とした
災害救援システムの実現に向けて 報告書骨子(会見資料)
21世紀の関西を考える会
ボランティアを含んだ都市・地域防災チーム

1997年8月

【提言の目的】
 「21世紀の関西を考える会」(代表委員座長=佐治敬三・サントリー会長)の、阪神大震災を踏まえた安心・安全な都市・地域づくりを検討する5つのチームのうち、本「ボランティアを含んだ都市・地域防災チーム」(リーダー=渥美公秀・大阪大学人間科学部助教授)では、阪神大震災に実践的にかかわった研究者や法律家、企業人、メディア関係者らが、阪神大震災に140万人を超えるボランティアが救援に駆けつけた事実を、今後の都市・地域防災にどう生かしていくべきかについて、一昨年秋から検討を重ねてきた。
 特に、「西宮方式」と称される成果を上げた旧西宮ボランティアネットワーク(NVN、現日本災害救援ボランティアネットワーク)の代表者を論議に加え、実践の報告の中から、日本におけるボランティアを含んだ災害救援の今後の方向性を探った。
 また、具体的な提言の理論的な背景となる「理論編」も、研究者だけでなく、他のメンバーとも議論してまとめた。

 阪神大震災以降、ボランティア活動に関する多くの報告や提言がなされているが、専門家を含めた形で実践の現場から災害救援ボランティアの今後のビジョンが幅広く示された提言は例がない。報告書は、本文がA4版約80ページ、議論の材料となった貴重な関係資料も添付して、全体で約170ページに及んだ。

【今後】
 本日の記者会見以降、本提言を関係省庁や地方自治体に対して政策提言するとともに、主要経済団体、日本赤十字社などの災害救援組織、各地の社会福祉協議会、ボランティア団体などに送付する。
 阪神大震災の経験と課題を踏まえた本提言が、災害国日本の社会において、ボランティアを含んだ災害救援の行動指針となることを期待している。

 なお、希望者には本提言・報告書要旨を無料で送付する。請求・問い合わせ先は、「21世紀の関西を考える会」事務局(担当:林、電話06−445−2001)。

【提言】
1.災害救援ボランティアと行政は、相互依存でなく相互補完的な連携をすべきである。
  −−「顔見知り」の関係を構築し、互いの「間」を知る−−
2.行政もボランティアも計画しすぎず、権限委譲など緊急モードを想定すべきである。
  −−想定以上の被害を前提に、速やかなモードチェンジを−−
3.災害救援ボランティア活動は一過性のものである。
  −−ボランティアの撤退が計算された計画を立てる−−
4.災害救援にはコーディネーターが必要である。
  −−客観的で冷静な判断力と、経営者的感覚を−−
5.災害救援ボランティア組織の専門性を高める必要がある。
  −−ボランティアを支える法的・財政的基盤を整備し、社会的認知を−−
6.ボランティア組織からの情報提供・広報活動が重要である。
  −−日常的に信頼される情報発信を心がける−−

【報告書骨子】
〔事例編〕
第1章 阪神大震災におけるボランティアと行政
 ボランティアと行政の連携のあり方を類型化すると、神戸市では距離を取り、芦屋市は単一の部署を通じて連携し、西宮市は一体で活動した。
 3市の事例から、 (1)ボランティア同士の連携による行政との窓口の一元化 (2)行政の多様な部局との連携 (3)ボランティアと行政それぞれの特性を補完しあう自律的な連携(4)ボランティア団体の財政基盤安定への支援など平時から連携できる体制の構築−−への配慮が必要である。

第2章 ボランティアと行政:西宮市の事例
 西宮市では市側からの働きかけが連携の実現につながった。
 民間救援物資の取り扱いをすべてボランティアに委ねたのが最も目立った違い。
 西宮ボランティアネットワーク(NVN)は、「日本災害救援ボランティアネットワーク」(NVNAD)に改組して災害救援組織を目指して活動している。

第3章 米国における災害救援とボランティア
 災害救援ボランティアの先進国である米国では、国、州、地域単位の災害救援ボランティア組織が、国や州などの行政組織と連携している。
 災害時には事前に決めた役割分担をもとに救援活動を展開する。
 全米組織(全米災害救援ボランティア機構・NVOAD)は「相互調整に徹し、命令は出さない」と合意している。

〔実践編〕
第1章 災害救援ネットワーク構築のためのアクションプラン
 ボランティアを含んだ災害救援ネットワークを構築するには、日常の協議で「顔見知りの関係」を作ることが重要である。
 災害救援ボランティアは活動期間を限定し、計算された撤退が必要である。
 災害時のボランティアコーディネーターには、経営者的感覚が求められる。
 行政とも連携してボランティア活動をする人の安全管理のルール作りが必要である。
 広域的な地域ブロック単位でのネットワーク構築が望まれる。
 行政は広域のネットワーク組織を認知して連携する姿勢を明確にする。
 災害救援のボランティア活動の後方支援には、財界・産業界の参画が重要である。

第2章 災害救援におけるボランティア活用の法的基盤
 行政は、ボランティアへの役割分担を明確に想定した計画の立案・実施が求められる。
 行政は、自身にはできない柔軟な対応が可能なボランティアに一定の権限を委ねられるよう、緊急時の特別ルールを定める必要がある。
 災害救援ボランティアを育成するには、市民活動法人法の早期制定や民法改正と同時に、ボランティア組織のマネージメント能力の向上が必要である。

第3章 災害救援に関する中央省庁の取り組みと課題
 「建築士」など従来の専門家を対象にした災害ボランティアは積極的である。
 位置付けが不十分なままの一般災害救援ボランティアの活動を、具体的に計画に盛り込む必要がある。
 省庁の縦割りを反映している災害ボランティアの研修・養成を、現場を想定した内容に充実すべきである。
 
第4章 災害時のボランティア報道の特性と課題
 行政でも被災住民でもない災害救援ボランティアを「美談」だけにしないために、マスメディアは単純に割り切れないあいまいな中間領域を表現する言葉を持つ努力をすべきである。
 阪神大震災では不十分だったボランティア組織の情報発信も、情報の信頼度の確保を念頭に置いたうえで、積極的に行う必要がある。
 マスメディアも、被災者の救援を第一義に報道するために、ボランティアを含んだ災害・防災関係者との日常的な情報交換が期待される。

〔理論編〕
第1章 日本におけるボランティア社会の構想
 従来からの「集団主義」「中央志向」「貨幣志向」の流れに対して、「奉仕団」ではなく個人としてボランティアをする「個人主義」、現場活動を重視する「現場志向」、金銭的な対価性のない「かけがえのなさ」へのこだわりというアンチテーゼが、阪神大震災をきっかけにボランティアの大衆化を導いた。
 阪神大震災で露呈した社会システムの脆弱性は、従来からの主流的流れに対する新しい流れを取り込むことで克服される。特に、災害時にはより新しい流れを迅速に取り込む必要があり、特に行政は現場に権限委譲を行う緊急モードへのモードチェンジが重要である

第2章 ボランティアを含んだ災害救援システムの構想
 ボランティアを含んだ災害救援活動は、シナリオのない即興劇や即興演奏のような「インプロビゼーション」としてとらえられる。そこには、シナリオはないが、一定のルールや型があり、互いの特性などを理解して適切な「間」を置きながら活動する。
 災害救援のインプロビゼーションは、 (1)詳細なシナリオがない (2)参加者が一定の技能を持っている (3)全体の「間」の考慮が必要 (4)自力復興の兆しが見えたら被災地住民に引き継ぐ (5)コーディネーターが必要 (6)平時の「顔の見える」ネットワークが、本番のインプロビゼーションを可能にする−−ことを、参加者が理解して展開されなければならない。

以 上


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