到来しつつあるボランティア社会を前提とした
災害救援システムの実現に向けて
21世紀の関西を考える会
ボランティアを含んだ都市・地域防災チーム

1997年8月

全体の要旨は、ここ(NVNADホームページ)にあります



資料編4
災害救援とボランティアに関する
中央省庁の具体的な取り組み


 時事通信社       
社会部科学班 中川和之

〔厚生省〕

 厚生省では、「食料品その他生活必需品の欠乏、住居の喪失、傷病等に悩む被災者に対する応急的、一時的な救助として行われるものであることから、災害の規模が個人の基本的生活権と全体的な社会秩序に影響を与える程度の大規模なものであるときに実施される」(同省災害救助研究会報告書)災害救助法を所管しており、阪神大震災の経験から従来の枠組みが不十分であるとして、さまざまな検討が進められている。阪神大震災以前は災害救助法の担当者は保護課の係長1人が兼務し、日赤の救護班だけで可能な小規模災害程度にしか対応ができない状態だった。その後、体制が拡充されたものの、現場対応に追われ、阪神大震災の経験を十分整理できていないまま防災業務計画を策定している。96年4月に災害救助対策室が発足し、研究会の報告書も受けて同室を核としてようやく災害救助業務に取り組める体制となった。

 同省では、同報告書に盛り込まれた改善点を含めて、災害救助法の運用マニュアルを、96年度末までに作成する。同報告書では、ボランティアについて「行政の機能がマヒ状態になった被災時において、ボランティア活動は迅速かつ柔軟できめ細かな対応が可能であり、精神的な面でも被災者に勇気と希望を与え、心の拠り所となる。また、行政の機能が回復しつつある段階においても、行政ではカバーしきれない多くの分野や、個々人の個別ニーズへの対応等において大きな役割を果たす」としており、この指摘を踏まえて運用マニュアルでは明確に位置づける。

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 ボランティア=社協中心からの脱却必要

 阪神大震災では、「ボランティアは本家という意識があった」(厚生省幹部)厚生省だが、現場で活躍したのは、社会福祉協議会を中心にした厚生省関係のボランティアだけにとどまらず、海外NGO(関連する官庁とする場合は外務省など)、YMCA、ボーイスカウト(同文部省)、労働組合(同労働省)などといったさまざまな団体に加え、ボランティアが初めてという学生が半数に上ったとの調査結果もあるほど、多岐に渡ってさまざまな人が、災害救助法に関連した現場で活躍した。

 ところが、同省の防災業務計画のボランティアの関連項目は、社協を中心とする福祉ボランティアの所管課である地域福祉課の発想で社協の活用策などを中心にまとめられている。社協の組織は、独立した職員を多く抱える地域だけでなく、自治体職員が派遣されている地域が少なくなく、阪神大震災でも初期は機能不全に陥った社協もあった。また、日常的に社会的な弱者への支援を中心に活動している社協は、災害時にも弱者救援の対策に専念するという専門家的な分野の活動が求められており、役割分担を再考する必要がある。

 同省が、各都道府県や政令指定市に、ボランティア団体や企業、労働組合などが参加する連絡会議の設置を助成しているのも、対象は社協を念頭に置かれている。参加団体の日常活動の得意分野を前提に、災害が起きた際にどのような役割分担をするかなどを具体的に議論していく上で、阪神大震災の事態を繰り返さないようにするためには、社協も中心ではなく一員としての発想が求められる。

 また、同省が作成したボランティアによる災害時の救援活動に対する自治体の支援措置などを盛り込んだ「災害時のボランティア活動に関するマニュアル」も、阪神での社協の活動をベースに作られており、広範な視点が不足している。

 今回の日本海の重油災害において、各地で社協が窓口になり、阪神大震災を経験した阪神間や全国の社協の応援もあり、ボランティアの受け入れや保険などの業務を行ったことは一定の評価ができよう。ただ、地震災害と異なり、あくまで行政などが正常な機能を維持していた場面での活動であったことは忘れてはならない。

 災害救助法の所管課で上記の報告書をまとめた保護課災害救助対策室では、来春に日赤に委託して発足する「災害救助調査研究・研修センター」で、災害時のボランティアについて、事例分析や研究を行い、自治体職員への研修などに反映させる。また、同センターでは中長期的に、過去の災害事例を収集・分析しデータベース化したり、避難所の効果的な設置運営や、仮設住宅の供給方法に関するマニュアルを作成。都道府県が行うボランティアの登録、教育・訓練、調整、講習会などを行うために、同センターでFEMAのように自治体が行う研修の教材作成までやりたいとしている。

 常勤職員を置き、長期的に活動していく同センターが、どれだけ広範な視点で調査研究を行ってノウハウを蓄積していくかが、今後の災害救援ボランティアにとって大きなカギとなる。

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 救援物資のあり方も今後の検討

 阪神大震災で多くのボランティアのマンパワーを必要としてのは、救援物資の仕分け業務である。同省の業務計画では企業からの救援物資について記載があるだけ。同研究会の報告書では、「救援物資や義援金もボランティア活動の一環」とされたうえで、「物資の仕分けなどの労力や古着等利用に適さない物資の存在」の問題点を指摘している。同省では、これらのガイドラインも、同センターで検討していくとしている。

 災害医療はボランティアからシステムに

 災害医療のボランティアについては、同省の阪神・淡路大震災を契機とした災害医療体制のあり方に関する研究会の研究報告書で、被災地医療のコーディネーター役と位置づけられた保健所が、「広域災害.救急医療情報システムを利用して、医療ボランティアに対する情報提供や受付窓口として機能することが必要である」とされており、また病院に対しては同報告書で「病院防災マニュアル作成ガイドライン」が示され、病院間の応援協定や地域防災計画上の位置付けも求めるなど、ボランティア的な活動より組織的な対応を求めている。


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〔自治省・消防庁〕

 自治省・消防庁は、消防組織を抱えて従来から防災行政の中心を担ってきた。阪神大震災の反省を踏まえ、積極的に災害対策の見直しに取り組んでおり、防災業務計画もかなり具体的、詳細な内容となっている。

 一方で、前例がない大災害だった阪神大震災の現実を前提にすると、従来から消防庁が全国で拡充を図ってきた地域型の災害ボランティアといえる自主防災組織の役割も変化している。大規模災害時には、消防、警察、自衛隊などの行政の手による救命救助が、被災地での必要性を満たすことは難しく、特に災害直後は住民の自助による救命救助が求められ、自主防災組織の役割は大きい。その後の生活支援の段階では、行政や地元被災住民だけで対応できないさまざまな業務が発生し、外部からの救援災害ボランティアの活躍の段階になり、仮設住宅への入居が始まる段階では再び地域と地元行政中心の活動に移行する。

 このため、自主防災組織と救援ボランティアとの連携なども必要になり、自治体の受け入れ体制の整備も含めて、自治省・消防庁の今後の検討課題となる。

自主防災組織

 町内会や自治会が母体になることが多い自主防災組織は、95年度末で全国で75759組織、組織がある地域の世帯を全世帯で割る組織率は47・9%に達している。86年度末では36・3%と徐々に増えてきている。しかし、消防庁ではこれまで組織率を前提にしており、その組織がどれだけ実態が伴っているのかどうかは、把握していない。実際、自治体に対して自主防災組織への研修の実施を求めているが、静岡県では行われている程度だ。

 自主防災組織の活性化・強化のため、資器材の整備を年4億5千万円(3分の1が国)の予算で、交付税で対応した単独事業として実施、自治体独自の整備事業も行われている。「これまでは組織率だけでみてきたが、自主防災組織を作っても、使う資材があって組織が有効になり、整備事業を呼び水にしたい」(消防庁)。

 また、自主防災組織の活動拠点のために、86年度に創設された起債や交付税による「防災まちづくり事業」を活用して、施設整備などを進めている。補助金ではないため、他の施設への付帯設備でも問題はなく、資器材を置いたり、自主防災組織やボランティアの活動拠点を想定している。特に、阪神大震災以降で事業内容の指導方針を変えてはいないが、事業選定をする際の基準にはしているという。ただ、拠点が避難所になってしまう恐れまで含めては指導していないという。

 また、活動内容については、阪神大震災の経験を反映させた「コミュニティー防災のしおり」というパンフを作成し、さらに防災資器材の活用のパンフも作成する予定だ。一方、マニュアルともいえる「自主防災組織の手引き」は83年に改定されたままであり、今後改定を検討する。

 同庁は、各地の自主防災組織の事例集などを作成しており、それを参考にそれぞれの自主防災組織で防災マニュアルを、地域の特性に応じて作成して欲しいとしているが、200−300世帯単位を前提にすると、地域にそれだけのノウハウがあるとは考えられず、同庁や自治体でガイドラインなどを作成していくことが望まれる。

 また、自主防災組織が隣町などの救援に向かうなどで実績を詰んで、能力も向上させれば、それ自身が救援ボランティアにもなっていくことも可能であり、そういう発想も求められる。

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ボランティア受け入れなどで研究委員会

 同庁は、96年10月に「地方公共団体の災害ボランティア対応に関する調査研究委員会」(委員長・井野盛夫静岡県防災情報研究所所長)を発足させ、災害ボランティアとの連携に関する自治体の課題と取り組みのあり方などを検討し、年度内に報告書をまとめるとしている。現段階では「ボランティアについて、唯一のコンセンサスは、行政がコーディネートするのは間違いだと言うこと」(消防庁)程度。

 このため、この委員会で、自治体の受け入れ体制などについての指針や、業務計画にある行政の責任の限界、自主防災組織と外部からの救援ボランティアとの連携についても議論ができればといい、残された課題は多い。

 受け入れ体制については、専門ボランティアと非専門ボランティアに分けられ、非専門でも団体、組織的なところを想定することになる。「自治体が社協のボランティアセンターなどを想定するのは、日赤もそこまでの広がりはなく、ほかに代わりになる主体がないことがある」(消防庁)としている。社協自身が災害弱者への対応の中心になることが求められたり、社協組織も自治体によって異なるため、「NVNのような組織と連携するのも一つの手」(消防庁)といい、委員会の報告に委ねられている。

 防災業務計画には、自治体、災害ボランティアの責任の明確化という文言がある。言葉にすれば簡単だが、実際には複雑な問題をはらんでいる。「もちろん、ボランティアに責任を持たせようと言うのではなく、行政や自主防災組織の責任の限界論という文脈。研究委員会でも議論に含められれば」(消防庁)といい、未整理のままだ。

災害救援ボランティア

 消防庁が主体としてではなく、民間を含めて災害救援ボランティアの研修が行われる際に、自治体の消防機関が必要な協力を行い、また消火や救命救急、避難誘導などの消防分野の研修カリキュラムの標準モデルを95年10月に作成している。内閣官房副長官だった石原信雄氏が委員長を務める「災害救援ボランティア推進委員会」が実施する講習は、このカリキュラムに沿っている。東京消防庁は独自に研修をして、災害ボランティアとして認定している。応急手当ボランティアは、構想はあるが具体的に何も動いていない。

消防団とボランティアの連携の検討も今後

 非常勤だが自治体の消防職員に含まれる消防団活動は、今風に言うと有償ボランティアという側面がある。阪神大震災でも、被災地で救命救助に活動したが、消防団の実態は地域によって大きく異なる。自治体本来の消防機能が強化されている地域では、「伝統芸能の継承的な訓練になっている」(消防団関係者)という実態もある。

 また、消火活動もただ水をかけるだけでなく、水損を避けるための高度な技能が必要になってきている半面、それぞれの自治体の消防学校で行うことになっている消防団への教育訓練は、本業が優先となるため団としての訓練が中心で時代にそぐわないとの指摘もされている。このため、震災以前から消防団自体の活性化が求められていた。

 消防庁では、内部の研究会として「大規模災害時の消防団活動」を作り、今年度末を目標に報告書をまとめる。そこでは、ボランティアや自主防災組織との連携もテーマになり、地域的な事情に応じた役割分担を探る。また、訓練も消火関係だけでなく、救助や応急手当についても行う必要があるという議論になっており、報告書にまとめられる。

 資器材の整備充実は、以前から行っている消防団活性化総合整備事業というメニュー事業で、96年度3億2千万円を、97年度予算案では4億18百万円に増やし、災害を念頭に置いた整備もメニューに含めている。

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〔建設省〕

 最も積極的に、ボランティアを制度として作り上げているのが建設省だ。主に二次災害と応急復旧のために、民間の専門家を事前に組織して、災害時にはボランティアで活動してもらい、行政をサポートする内容だ。これらのボランティアは、自治体の要請を受けて「危険である」などという判断をして情報を提供する。斜面判定士などは、この情報を元に自治体が避難勧告などを行うことはある。自治体との連携・調整の元で行われることが前提で、勝手な判定士などありえず、すべて組織型になる。

 防災業務計画に記載されているのは、斜面判定士、建築物応急危険度判定士、構造物危険度判定士、防災エキスパート、住宅・擁壁危険度判定士である。
 

建築物応急危険度判定士

 地震直後、二次災害防止のため、建物の危険性を使用可能(青)、注意(黄)、使用不可・立入禁止(赤)のように判定し、民間の建物を一時判定する。何らかの強制的な権限を持つわけではなく、被災住民への情報提供である。阪神大震災では延べ5000人が5万戸の建物を判定した。

 阪神大震災以前から同省で検討が行われ、神奈川、静岡両県で制度化されていた。1級、2級建築士に判定士として研修を受け登録してもらう仕組みで、「防災基本計画に位置づけられており、各自治体は当然盛り込むはず」(建設省)としている。都道府県単位で制度化し、95年度末現在で4万人程度が受講、96年度も3万人程度を予定している。行政関係者も含まれているが、民間の建築士が多い。将来的には、最大規模の災害でも対応できる10万人程度まで養成を進めたいとしている。

 96年4月に発足した全国応急危険度判定協議会(全都道府県、建設省、建築関連団体)で、相互支援体制や判定シートの標準化、資機材の準備を協議している。日常的には自治体が会議費程度の予算で、同制度を住民に周知、普及も図る。「交通費や滞在費、判定資機材費用などの派遣費用はお互い様になるのか、派遣先が持つのか議論になっている」(建設省)。

被災宅地危険度判定士(仮称)

 建築、土木の官民の技術者が、被災した宅地の盛り土斜面や石垣などの擁壁の危険度を判定する。阪神の際には、建設省や自治体が、住宅公団や(社)全国宅地擁壁技術協会(会員企業)に要請し、延べ800人が被災地で同様な活動をし、5000戸程度の被災宅地の危険度判定を実施し、あくまで情報サービスとして文書で所有者に通知した。

 この経験を制度化しようと、現在、都道府県と意見交換を進めており、97年早々に制度発足の具体的な通知を出す。講習会を受けた人を知事が認定する。土木的な技術者としては、宅地造成等規制法などに設計者の規定があるし、建築物応急危険度判定士に、宅地の講習会を受講させて建築物と同時に判定してもらうことも自治体によっては検討している。制度発足当初は、公団や公益法人、行政OBが中心になるのとみられ、「建築士のような母体組織がないため、どこまでボランティアが名乗り出てくれるかがカギ」(建設省)となる。

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砂防ボランティア

 砂防ボランティアは、がけ崩れや土石流発生の危険区域の住民の中で、特に高齢者や病人ら災害弱者を守るのが目的で、必ずしも専門家である必要はない。日常的には、知識の普及行事などや訓練への参加を行い、被災時に行政情報を住民へ伝えるとともに、災害弱者が逃げ遅れないよう避難誘導に当たったり、地盤の形状の変化がないか、クラックが入っていないかどうかなど、各県ごとに地域の特徴があり、内容は異なる。「斜面の下から水が出ると土砂崩れの恐れがある」とか「渓流で水が濁ると土砂災害が危ない」などの基礎知識を自治体ごとに研修を実施。

 96年末で15県が「砂防ボランティア協会」を発足させている。6月の土砂災害防止月間に、同省などが砂防ボランティアの大会を開催する計画で、それまでには全都道府県で発足する見込み。

斜面判定士

 斜面判定士は、各都道府県の砂防ボランティア協会の推薦を受けた一定の技能を持つ人を対象に講習会を実施して認定。災害時に、土砂災害が起きそうな斜面を緊急的に判断。判定士が行政にデータを示して、責任は行政が負う。

 阪神大震災では、同省からの要請で、砂防学会や他の都道府県の担当者、OB、民間のコンサルタントなど260人が、ボランティアで地滑り等緊急支援チームを結成し、71カ所について応急措置が必要なことを突き止めて行政に情報提供し、2次災害防止に役立った。

 講習会は、96年度に1度実施(約200人)、97年6月にも同規模で第2回目の講習会を実施予定。推薦基準は、同様の業務に従事している経験年数などになり、当面各地方建設局や自治体OBの活用が多くなる見込み。講習は、技術の向上だけでなく、ボランティアの心得なども含まれ、1度の講習会で認定する。

防災エキスパート

 防災エキスパートは、大災害の直後に、幹線道路やトンネルなどの施設を見て回り、国や地方自治体に被害状況を報告し、復旧に向けた技術面の助言をする。基本的には、地方建設局のOBのノウハウを活用しようという仕組みで、全地方建設局でスタートしている。一部の自治体でも発足している。現在、全国で4000人が登録している。基本的に、実費補てんだけのボランティア。日常的には、防災訓練や情報伝達訓練に参加し、国や自治体との意思疎通を円滑にしておく。

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〔文部省〕
避難所となった学校での受け入れ

 避難所の多くは小中学校だった。このため、文部省の防災業務計画では、「学校等が災害時のボランティアの活動拠点として利用される場合の必要な措置や助言・指導を行う」と書かれており、「学校等の防災体制の充実に関する調査研究協力者会議」が96年9月に報告書をまとめた。自治体教育委員会や学校がマニュアルを作るための指針として、都道府県の教委に配布しており、「地域の実情に応じてマニュアル作りを進めてほしい」(文部省)としている。

 報告書では、避難所を運営する場合に必要となる業務として、自主組織の立ち上げ指導やボランティアの組織化が指摘されている。また、学校の防災計画では、「安全の確保や学校が避難所となる場合の円滑な運営を図るため、協議の場の設定等により、地域の自主防災組織、ボランティア組織等の協力を得るよう努めるものとする」としている。

 また、報告書では「ボランティアに関しては、その本質が自分にできることを自発的に行うということにあるから、現実のボランティア活動には、その担い手、個人の事情によって、内容、活動時間・時期等で様々な場合がありうる。したがって、その受入れ方策等についての研修が重要である。」とあるが、これも自治体教委に委ねられている。

 ただ同省は、96年度から97年度にかけて、「防災体制の実戦研究」事業として、学校の防災体制の整備と、防災教育のモデル研究を全国の災害先進地区の8市区町教委(奥尻町、仙台市、江東区、清水市、豊中市、神戸市、芦屋市、喜界町)に委嘱しており、成果を報告書にまとめ、全国的に還元する。

大学生の災害ボランティア活動支援

 防災業務計画では、「学生がボランティア活動に参加しやすいような環境づくり」の一環として、同省は「防災ボランティア・ハンドブック」を作成し、96年度末に国立大学や国立高専の学生に配布する。ハンドブックでは、災害時の心構えから、実際に阪神大震災でどう活躍したのか、ボランティアの活動方法や二次災害防止についても記載する。新入生に配り、オリエンテーションで活用する。

 一方、ボランティア活動を授業活動に取り入れる大学は、95年度で国立26、公立2 私立46と、2年前と比べ10以上増えており、今年度も大幅に増えている見込み。

〔警察庁〕
各種のボランティア組織と具体的連携

 警察庁は、防災業務計画で「自主防犯組織等のボランティア関係組織・団体との連携を図り、被災地における各種犯罪・事故の未然防止と被災住民の不安の除去等を目的として行われるボランティア活動が円滑に行われるよう、その活動環境の整備のための方策を検討し、必要に応じて都道府県警察に対する指導等を行うものとする」などとしている。「震災時に警察が動く際に、ボランティアに助けてもらった実体験を元に書いている。災害時には警察はあらゆる面で活動する。ボランティアの活動はほとんどが警察に関わると言える。」(警察庁)という。

 都道府県警察が実情に応じて対応し、民間団体との協定書を締結している。警察庁の外郭団体の防犯協会や交通安全協会など既存の組織だけでなく、警備業協会に交通路確保や避難所警備を、アマチュア無線団体に有事の際に情報提供を、地元医師会との検視の協定を結んだり、県警OBからの災害時の情報提供を受けるなど、それぞれの都道府県警が行っている。「コアになる組織にコンタクトしていきたい。災害ボランティアも恒常的な組織にならないと、コンタクト取りにくい。そういうネットワークを作って欲しい。」(警察庁)という。

緊急輸送対象は組織型なら

 緊急交通路を確保するための輸送対象の想定を防災業務計画で定めているが、ボランティアの輸送などは含まれていない。「自治体の要請に基づいていたり、協定を結んでいて集団でバスとかで大型輸送ができるケースであれば、マル緊マークは出せるだろうが、個々にマイカーなどで来た場合は断ることになろう」(警察庁)。ただ、東京都では第1段階は赤色灯を付けた緊急車両以外はすべて規制対象としており、災害の規模や自治体の判断によって異なる。

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〔郵政省〕

災害ボランティア口座

 ボランティア団体やグループが活動することが想定される災害が発生した後に開設する。郵便局で受け付ける義援金の別バージョンと考えるほうが分かりやすい。ボランティア団体などから口座開設から3カ月間、活動内容など事業計画を公募し、郵政審議会で配分先を決定して通知する。援助期間の活動は6カ月以内を対象にするため、6カ月までの残り1−2カ月は資金的なめどを付けて事業を継続でき、6カ月たった後に、領収書などを添付した完了報告書を提出させ支給する。

 災害時の救援ボランティアの活動期は3カ月程度をめどとすると、配分は活動終了後になる可能性もあるが、「預金者から集めた善意の寄付金なので、ある程度納得できる配分にしなければならず、審査手続きが必要」(郵政省)という。また、コーディネーター組織にまとめて渡して、そこが再分配することは想定しておらず、個々の活動に対して払う形で、社協が阪神大震災で行った募金活動より不自由な内容だ。

 基本的には集まった額にを全額配分するため、支給額や対象数は分からない。郵便局経由の義援金は阪神大震災で361億円、北海道南西沖地震で70億円だったが、その一部がこの口座に流れると同省は想定しているが、額の見通しはない。

郵パック問題は手つかず

 阪神大震災の際には、膨大な郵パックの救援物資が被災地の手前の大阪小包郵便局に集積された時点で、神戸市対策本部が小包を受け取ったと見なし、同郵便局で非常勤職員が開封し毛布、衣料、飲料水など十種類に仕分けした上で同本部に届けるという郵便制度史上、初めてという試みを行った。一方、被災地外の自治会などがボランティアで仕分けをした上で救援物資を送り出した事例があった。被災地外の拠点郵便局などに地元でボランティアを集めて、大阪小包郵便局で行ったような仕分けをし、被災地の負担軽減を図るというような発送はなく、「信書の秘密を冒すことにもなり、郵便法の改正も必要になる。特に議論していない」(郵政省)という。

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〔運輸省〕
救援ボランティアの被災地への輸送など想定

 運輸省の防災業務計画では、ボランティアの受け入れ可能性がある分野についてのあらかじめの検討し、対応方針を決めるとあり、運輸省内の体制作りのガイドラインを96年度内にまとめ、所管事業者の協力も求める。その上で、具体的な分野も含めた具体的なマニュアルを97年度から分野ごとに作成する。救援ボランティアの被災地への輸送などは含まれる。

〔防衛庁〕
ボランティアとの協力・連携、議論されず

 阪神大震災で、自衛隊は災害派遣業務の中心になる救命救助だけでなく、生活支援にも活躍し、その際に現場レベルの判断でボランティアの手を借りたり、貸したりとの連携が行われた。しかし、防災業務計画ではボランティアの関係は何も取り上げられていない。また、自衛隊とボランティアとが被災地の現場でどう連携したか防衛庁で実例調査も行われていない。

 「計画作成の当時は、派遣の初動の問題が焦点で、ボランティアについて、特に議論になったと言う記録はない。実際、中央から現場にボランティアとの連携について指示を出したわけでもないのに、阪神大震災でも連携できなかった訳ではない。今後も、現場判断での連携はあるだろう。日常の防災訓練も含め、自治体を中心にしてボランティアと連携をすることもありうる」(防衛庁)としている。

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〔労働省〕
ボランティア活動促進は「余暇の充実」

 阪神大震災では、企業や労働組合によるボランティア活動が積極的に行われた。労働省では、以前からボランティア環境整備事業として、勤労者ボランティアセンターを作ったり、ボランティア休暇や休職制度について、企業や組合に支援を行っていたが、阪神大震災を期に災害ボランティアを想定しての事業は特に行っていない。阪神大震災時の企業や労組のボランティア活動について7年度に報告書をまとめた程度。

 既存の事業が阪神大震災でボランティアの認知度が高まったことをきっかけに拡充し、7年度に東京に作ったボランティア相談コーナーを8年度に大阪にも作り、情報提供や相談を行っている。8年度にはパソコンネットを活用した情報提供も始めたというが、人事院が阪神大震災をきっかけに国家公務員のボランティア休暇制度を実現させたことと比較すると、積極的な発想がみられない。

ボランティア活動で求職活動免除、今後も運用で

 阪神大震災の際に、労働省はボランティア活動の支援のため、雇用保険で求められる求職活動を震災でボランティア活動に従事した人について免除できるという指示を、2月初めにした。失業保険を受給したい人が、職業安定所に出向く必要がある求職活動指定日に、ボランティア活動をしていた場合には、その日に来れなくても失業保険の受給は有効であるという方法だった。当時は、混乱した状況下で、特に証明などは求めず、本人の申告でいいということにしていた。

 防災業務計画などを検討する際にも、内部でも議論の対象になったと言うが、「今後、同様の大規模災害があれば、同様な措置を取ることになろうが、制度化はしない」(労働省)と、運用に任されている。

〔人事院〕
国家公務員にボランティア休暇

 人事院は、一部地方自治体だけで導入されていたボランティア休暇制度を、97年度から国家公務員にも制度化した。期間は年五日以内で、対象を(1)災害時の被災者の援助活動(2)障害者、高齢者等への援助活動−−の二つに限定している。実際、人事院総裁をはじめ、多くの国家公務員が阪神大震災で個人的にボランティアを行っており、災害ボランティアの幅を広げる点でも意味がある。


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